第5話 メリークリスマス

「じゃあ、お母さんは買い物行ってくるから。 出かけるなら鍵ちゃんと掛けるのよ」


「はーい」


 食卓から母を見送ったユキノは朝食の食器を洗って片づけ、部屋に戻ってサンタに問いかけた。


「服は、コレでいい?」


 サンタは力強く頷いた。ハンガーに掛かった可愛らしい服の下には勝負下着が畳んで置かれている。


 グッと拳を握り、「よしっ!」と気合を入れたユキノは着替え、洗面所で身だしなみを整えると部屋に戻って来、サンタの前でクルっと一回転して言う。


「ど、どうかな? 似合う?」


 サンタは手を前に出し、goodと親指を立てる。


「よ、よし! ありがとう、サンタさん。 い、行ってくるね!」


 上ずった声で気合を入れたユキノはドアノブに手を掛ける。サンタは、いってらっしゃ~い、と手を振った。


 しかし、見送った後いつまで経っても家の玄関の戸が開いたりする音が聞こえない。どうしたのだろうと、サンタはベッドからピョンと飛び降りて部屋を出、トコトコと廊下を歩き、階段をよいしょよいしょと下りて玄関まで様子を見に行った。


 そこには少し青い顔で玄関の引き戸に手を掛けて固まっているユキノの姿があった。


 サンタがしばらく様子を見守っていると、ユキノも彼の存在に気が付いたようで振り返る。腕を組んで少し斜めの姿勢をとるサンタは苛立たしい気持ちを表すために片足をトントンしていた。


「……わ、分かってるよ。 でもやっぱりクリスマスって特別っていうか、普通のデートと違うじゃん。き、緊張するし。 そ、それに打ち上げで遊びに行って以来、二人で遊びに行ってないし…… も、もしかしたらからかわれてるのかなっとか――」


 もじもじしながら言い訳を並べるユキノに呆れたサンタは、彼女の言い訳を最後まで聞かず、トコトコと歩いて行き引き戸をガラっと開けると、ユキノの背中に回ってピョンと高く飛び上がり、バシッと彼女の背を思いっきり蹴飛ばした。


 突然の蹴りに驚き「ひゃっ!」と声を出したユキノは、蹴られた勢いで玄関の外に出てしまう。背後でガラっと玄関が閉まり、次いでガチャっと鍵の閉まる音がした。


「あっ! 鍵まで閉めたな!」


 振り返って怒鳴ったユキノだったが、すぐに「あははははっ」と笑い、「ごめん、ありがとう、サンタさん」と言う。

 大きく深呼吸をしたユキノは「行ってくるね!」と玄関の向こうにいるサンタに言うと待ち合わせ場所へと歩き始めた。




 その日の夜。荒々しく玄関の引き戸がガラっと開けられ、「ただいまー!」と元気な声で帰って来たユキノは、ドタバタと階段を駆け上がり部屋の扉を勢いよく開く。


「やったよ、サンタさん! 告白されちゃった! 彼氏できたぁ! アキトくんと付き合っちゃったぁっ!!」


 ベッドに飛び込み、サンタを引き寄せると抱きしめて報告する。しかしサンタに反応はなかった。


「あれ、サンタさん? どうしたの?」


 呼びかけにも反応はない。くすぐっても、おでこをペチンと弾いても、ちょっと強めに頬っぺたをウニウニしても、何をしても反応がない。今まで動いていたのが嘘のように、今はただのぬいぐるみであった。


「夢……? だったの?」


 そんなはずはないと、ユキノは慌ててスマホを取り出しメモ帳に保存された文字を確認する。


『ユキちゃんが大好きだから。 上手くいったでしょ?』


 ユキノはクスっと微笑む。


「ありがとう、サンタさん。 大好き」


 笑顔で礼を言ったユキノは、再びギュッとサンタを抱きしめて幸せそうに眼を閉じた。



―― 完 ――

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サンタさんの贈り物 はとポッポ豆太 @8topoppo

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