第5話 時の衛人③

スレヴァーは咄嗟に机を蹴飛ばす。横にいたタイキの頬をかすめ、机はゴロゴロと床を滑っていく。

 鎌瀬も犬上も驚くどころか、逆に姿勢を低くして突っ込んでくる。

 左右から、一歩で距離を詰めるプロの動き。

 瞬間、銃声が鳴り響く。慌てて鎌瀬と犬上は柱の陰へと飛び退いた。

 シーンとなった後、遅れて群衆が騒ぎ始める。その場に固まるもの。慌てて逃げだすもの。反応は様々だった。

 

「嬢ちゃん。銃は反則だろ?」


 トリィネは銃口を彼らに向けたまま明るく返事をする。

 

「ゴム弾だから平気だってば」

「ゴム弾でも外れたら死人が出るだろ。ガキの腕じゃ尚更な」

「そうかな?さっきのは狙い通りお兄さんの足に当たったんじゃない?」


 2人は無言のまま何も答えない。それが何よりも答えだった。

 スレヴァーはトリィネに手で近づくよう合図する。


「トリィネは2人を連れてあの群衆に紛れ込め。そのまま車へ向かうんだ」

「お兄ちゃんは?」

「どうにかあいつらを引きつける。タイミング見て車に行く。あとこれ」


 スレヴァーは袋をトリィネに手渡す。そのままタイキに譲ると銃を構えたまま、タイキとユキノを庇うように後退りした。

 集団に紛れ込めれば逃げるのはそう難しくない。それにあいつらがいないほう動きやすい。加えて周りの客も逃げ出して動きやすくなった。あとはこいつらをどう足止めするかだ。そう簡単ではないだろう。


「おじさんたち時衛隊だよね?」

「……時衛隊を知ってるか。やっぱりお前この時代の人間じゃないだろ」


 意外にも会話に乗り気なことに対してスレヴァーは驚く。乗ってくれるならうれしいことこの上ない。


「ばれちゃったかー」

「白々しいやつ」

「時衛隊がこんなとこで何してんの?あんたらの仕事は観光してるボンボンの護衛だろ?」

「舐めるな!我々の仕事は時空の規律を守ることにある。観光バスの監視も貴様ら犯罪者を追うのも立派な業務の内だ」

「へえ、企業所属の私営部隊。時衛なんて名ばかりかと思ってたよ」

「……これは仕事の一環として聞くんだがお前ら何者だ?あいつとはどんな関係で、この時代にどうやって来たんだ?」

「なーんか質問多くない?」

「お前らみたいなやつは初めてだからな。過去にも未来にもないイレギュラー」

「うーん」


 トリィネたちをチラ見する。視界に彼女たちは映らない。どうやら時間稼ぎは十分らしい。


「……教えてあげない」

「なら無理やり聞くまでだ!」


 その言葉を合図に柱の両側から二人は飛び出す。

 時衛隊の二人は距離を詰めてくる。足を痛めてるとは思えないほど初動が速い。それよりも驚くことがある。その手には銃が握られていた。

 左手で皿を一枚、右手でナイフを一本つかむ。皿に回転を与え、横薙ぎに放った。

 

 ――ヒュッ。

 

 皿は犬上の足元で砕け散る。無造作に飛ぶ破片に彼の足が止まる。反射的だった。

 無理なブレーキが彼に痛みを思い出させた。顔をゆがめながら倒れこむ。


 流れるようにナイフを投げる。狙いは鎌瀬。ナイフは手にあたり銃の軌道をそらす。


 ――パンッ。


 容赦なく撃たれた弾は、スレヴァーの頬をかすめた。彼の銃はリボルバー。一発撃てば隙ができる。


 ――よし。

 

 スレヴァーは横へ飛び、壁際の消火器に手を伸ばした。

 ピンを引き抜くと同時に、後ろへ倒れ込みながらノズルを向ける。

 

 ――ブシィィィィッ!!

 

 爆ぜるような音とともに、白い粉末の奔流が通路を覆った。

 一気に視界が白に染まり、床を叩く噴射の音が反響する。

 白い靄が時衛隊を包み込む。突っ込んだ鎌瀬には痛い反撃だった。目を開けていられない。

 

 ――こんなもんか。

 

 スレヴァーはナイフを手に取り煙の中を逆方向へ駆ける。

 3階から1階まで吹き抜けのあの場所。あそこには垂れ幕がある。それは縦に長く、地上まで届いていた。

 いざ下を見ると鳥肌が立つ。近づく足音。迷う時間はない。

 スレヴァーは身を乗り出し飛んだ。

 

 ――バサァッ!

 

 垂れ幕に両手でしがみついた瞬間、腕が一気に引き伸ばされる。布が悲鳴を上げ、縫い目が裂けていく。ナイフを握り直し、縫い目へ突き立て引っかける。

 布の破れる速度が一瞬だけ落ち、その隙に体勢を調える。

 

 ――ズザァァァ――ッ!

 

 垂れ幕は破れながら滑り台のようにスレヴァーを運び、二階相当の位置で完全に裂けた。

 そこから落下。

 衝撃を逃がすように地面へ転がる。


「……ッ、はぁっ……!」

 

 息をつきながら立ち上がる。

 客が皆スレヴァーを見つめる。下のほうにまで混乱は伝わっていなかったようだ。

 上を見ると時衛隊2人がこちらを覗き込む姿が見えた。鎌瀬は大声で笑っている。


「お前……マジで!飛び降りたのか!?」

「笑っている場合じゃありません早く追わないと」


 寄ってきた警備員軽く蹴飛ばし、スレヴァーは駐車場へ向かって走り出した。

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