2−3

鼻歌混じりに地べたに座り込むアトリを見て、テックは文句を言った。

「少しは一緒にやってる感、出してもいいんじゃないの。」

そう言いながら、ドアの鍵穴をガチャガチャといじくり回す。

「だってー、私それ下手なんだもん。」


旧人類の遺跡。特に居住区に該当する場所は得てして施錠されており、新人類の技術で解錠できるのはごく一部だ。それでも彼らはその扉の先の発見のために、初歩的なピッキングで対応する。

「ん。開いたぞ。」


「……これはムリかも?」

今度は遺跡の内部で、ドアの前で立ち往生していた。そのドアには先が見える”透明板”、つまりガラス窓があったが、横になった棚が塞いでおり、動かすことができない。

そのガラス窓を破壊して、棚を踏むようにして先に進めれば、とアトリは考えたが、その強度と割れたあとの破片の鋭さは、彼女らにとって脅威であり、障害であった。


「仕方ない。手前の部屋だけ漁るぞ。」

「はーい。……この先も面白そうなんだけどなぁ。」

ガラス窓から見える範囲で先を覗く。衣服が砂山のように積み上がっており、カラフルな小型品が散乱している。ワタで作られた”偶像”、どうせ読めない沢山の書物、厨房(と考えられている場所)にも使えるものがあるのでは無いか。キラキラした目で見渡すも、まるで店頭に並んだ品物を見る幼児のように、その先へと手を伸ばす事はできなかった。


「結局、大した収穫は無かったか。」

労多くして功の少ない現状に、テックはため息をついた。だがそれもいつものことだ。

住処の近くはすぐに漁られるから遠くへ向かう。しかしだからといって、遠くにて良い収穫があるとは限らないのだ。

「それこそ未知の生命とか居たらな。」

と、アトリに変わって今度はテックがそれを望んだ。


「時間もバッグの空きもあるし、近場の”花”でも回収しておく?」

とアトリは提案し、テックもそれに了承した。

”黒い花”がもたらしたのは災厄だけではなかった。それらの蜜や花弁からエネルギー資源が取れる事を発見した新人類は、それを用いた新たな機構をいくつも生み出し、それが文明を支えている。街や遺跡を照らす”機械灯”や、アトリが用いる光線ブレードもその一種だ。


中には、”花”の枯渇や、何がしかの悪影響を懸念する声もある。しかし逆に、このようにして消費しないと増える一方なのだ。新人類には耐性があるとはいえ、度が過ぎると身体に悪影響をもたらす。行動域を広めるためにも、冒険者や専門の者が花を収集し、資源として消費する必要があった。


旧人類文明の”透明な袋”の中に採取した花を入れ、こぼれないように袋の口の部分を閉める。

「これでいいとして、もう帰るしか無いかな?」

「そうだな。まあ、しばらくはここを往復する形で稼ぐしか無いだろうよ。」

早めの撤退は生存の秘訣。冒険者になりたての頃に研修で聞いた言葉を思いかえしつつ、一行は帰路に着く。


黒い花が点在して咲く下り坂を、二人は歩いていく。町にたどり着く頃には、空はオレンジ色に染まっているだろう。ここを駆け降りたら気持ちいいだろうな、とアトリは考えるが、背負ったそこそこの荷物の感触を確かめ、自重する。

どこまでも続く、崩壊した遺跡群。その一つ一つに旧人類の痕跡があると考えると、その発展ぶりを窺い知れた。


故に何故このような結末に至ったのか。黒い花は、何も語らず静かに揺れていた。

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