2−2

「いるねぇ……」

と町の外、目的地へ向かう荒れた道を進むアトリ達の目先には、蜘蛛型の小型モンスター、ゴブグモの姿があった。130cm程のサイズで、進行方向に3匹グループで移動しているのが見える。

地球を覆う”黒い花”の脅威に適応したのは新人類だけでは無い。他の生命もそれぞれ進化し生態系を築いていったが、新人類からはモンスターと呼ばれ、脅威とみなされている。それは冒険者が探索中に襲撃されたり、民間人への被害があるから恐れられているのだが……


「まだ先制できる。射っていいよね?」

テックは弓に矢をつがえながらも、慎重に様子を見ている。巨大化した植え込みに身を隠しながら、しっかりと対象の頭を狙う算段をつける。

「見逃してもらう、とかできないかなー。」

「前にそれで後ろからどつかれかけただろうが。」

指摘を受けたアトリは、冗談だよと言わんばかりに笑いかけ、そしてしっかりとゴブグモ達を見据えて、

「当てたら、出るからね。」

と、合図をした。


パシュン!

と、矢が放たれる。音に気づいた頃には遅く、グループのうち一頭の顔に深々と刺さった。

キシャァという悲鳴、ガチガチと牙を鳴らす威嚇の音も聞かずに、アトリは素早く前方に跳躍するように躍り出た。

手には銅色の小さな金属筒。鉄パイプと呼ぶにも満たない短さのそれに付いている、トリガーのようなものに手をかける。すると、筒の先から光の線のようなものが伸び、それはみるみる内に剣の形を成した。

機械武器・光線ブレード。それが彼女の得物だった。まだ一般流通はしていない代物だが、アトリの友人のコネで入手した物だ。


アトリはそれをブンと振り下ろし、向かって来た一頭に叩きつける。しっかりとダメージが入った事を確認し、横から襲いかかるもう一頭へと横薙ぎを返す。向けられた牙は逸れ、ゴブグモ達の反撃は叶わなかった。

すかさず、テックの矢がまた彼らを射抜く。致命傷にはなり得なかったが、体制を崩すのには十分。

「……ごめんね!」

光線ブレードの一閃が、体軸を割く。一体、もう一体と切り裂いていき、最初に矢が刺さった残りの一体にも、しっかりとトドメの一撃。


「よっし。ナイス。」

とテックは勝利の余韻に浸る様子もなく、サッとナイフを取り出し、手際よく彼らの体を解体する。牙や目玉、外殻の一部など、討伐の証拠になるようなものを適当に取って、カバンに雑に詰めていく。


「……かわいそうにねぇ。」

「それ、たとえ思ってても言わない約束だったろうが。」

アトリはあまりこの光景、あるいは戦いというやりとりが好きではなかった。モンスター達も意思のある生命で、ただ、自分たちの目の前に出て来ただけなのだ。


「やらなきゃ、こっちがやられるのさ。」

それでも、冒険者にとってモンスターの討伐は役目のようなものでもあり、世間からも推奨されている。というのも、モンスター達は明確に「新人類に敵意を持っている」と認識されているからだ。

縄張りの主張や、護身のための攻撃、それらを超える意図があるとされており、一部の者はこのような説を提唱している。『彼らは地球から人間という”癌”を排除しようとしている』と。


光線ブレードのスイッチを切り、アトリ達は一息ついて、先へと踏み出した。

(私たちとモンスターの違いって、なんだろうね。)

悩む事はなく、ただ、思うだけ。それでもその一瞬の思考は、アトリが”変わり者”たる所以であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る