2−1
優しい温度感のある光が、窓から差し込む。目覚めたアトリは、ぽけーっとした様子のまま、寝癖のついた耳を手で正した。
朝ごはんにシリアル状の穀物と、にんじんを頬張ることで彼女のスイッチは入る。
ツイード状の服に着替え、その上からベージュ色のロングコートを羽織る。ズボンには尻尾用の穴が空いており、小さな丸いしっぽがぴょこんとアピール。
元気よくバタンとドアを開け、空を見上げて伸びるように深呼吸。
今日も快晴だ。清々しい朝陽が挨拶をするように輝いている。そして。
(なんで空は青いんだろう。そもそも陽って何?どうして……)
と、疑問のループを始める。ここまでで、いつものルーティンのようなものだ。
この世界には、とかく謎が多すぎる。陸の果て、海の向こうには何がある?天体に浮かぶものの正体は何?そういった疑問の存在が、アトリの知的好奇心を刺激する。
もっと見て、もっと聞いて、もっと考えて。そして。
「アトリ、おっす。」
と、少し毛のボサついたテックがやって来た。まだ眠そうな様子は、空の機嫌の良さなんて関係なさそうだった。
「テック!今日もいい1日になりそうだね!」
「なーにを根拠に。アンタはいつも元気だね、分けて欲しいくらいだ。」
ポリポリと体の毛を掻いて冗談を言うテックに、
「あら?いつも元気を分けているじゃない!だって最初会った時と比べて随分……」
「はいはい。昔は昔、な。」
そしてアトリは上機嫌そうにギルドへと向かうのだった。
割れてデコボコした、植物混じりの街道をスキップ混じりにアトリは歩く。
何を楽しそうにしているのか、と周囲は一瞬思うが、彼女の様子を見ていると、自然と明るい気持ちになっていく。
「得体はしれないが、明るさは本物」といった観点では、アトリはまさに”陽”だった。
「と、言うわけで、ココに行って来ます!」
「あいよ。死なない程度にがんばりな。」
地図の上、アトリの指差した先を見てマヌカは表情も変えずに応対する。
先日漁ったところから、さらに奥へ行った場所。彼女達はカコウ山の上を目指していた。
山といっても小規模で、”丘”の方が適切なのだろうが、旧人類語の解読者が「ここは山と呼ばれていた!」と提唱したものだから、皆そう呼んでいる。
「まあ危険なモンスターの発見記録も無いし、死ぬような事はないって。」
「え〜!未知の生命とかいないのかな!?」
「なんで危険を自ら望むんだよ……」
アトリとテックのやりとりを見ながら、
「はいはい、ほら後がいるじゃないか。早く行きな。」
マヌカは手で軽く払うようにジェスチャーした。
(まったく、この”二人”は元気だね。)
無愛想なマヌカの顔が、少しほころんだ。
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