1−4

___犬、猫、鳥、兎……こういった動物を先祖に持つ我らが人類の後継者たり得たのは、一重に「人類の生活を最も近くで見てきたから」である。


旧人類の意思は、彼らの愛情と共に受け継ぎ、我々にはそれを守り抜く義務がある___


(少し主張激しめな本だなぁ。)

頬杖をつきながら、アトリは自室で本を読んでいた。指先で”物書き棒”を器用にくるくると回しながら、目線は淡々と文字を追って。


アトリは好奇心旺盛だ。その関心は特に旧人類に対して向けられている。

彼らを崇拝しているわけでもない。彼らを貶しているわけでもない。アトリにとって旧人類は、「何故?」「どうして?」といったただの疑問の対象に過ぎないのだ。


(……旧人類はここでどんなふうに暮らしてたんだろうな。)

ただの石ではない、硬質な壁を見ながら、アトリは考えた。この壁ですら、旧人類の名残である。

目に映るもの、全てに意味がある。そこには意義があり、原因があり、結果があり……。アトリはそういったものを”無視”できない性分だった。


旧人類の真似から生まれた”ふかし芋”を頬張る。旧人類と同じ味なのだろうか、と考える。

旧人類の真似をして水浴びをする。やや冷たい。温度調整はどうしていたのかを考える。

旧人類の真似をした寝間着を着る。彼らは夢を見たのだろうかと考える。


彼女にとって、思考こそ日常であり、追求こそ生き甲斐であった。

(……逆に、なんでみんなは気にしないんだろう。)

そう、思ってしまうほどに。


ふわぁとあくびをして、藁のベッドに横になる。旧人類の”寝台”を再現・量産できるほど、この町の技術は進んでいない。


窓から見える、空に浮かぶ”第二の陽”を見上げる。今日は半円の形だ。

(旧人類は、結局どこにいったんだろう?宙の向こうって言っていたけど、本当かな?)


どうやって、どうして、なんで、彼らは。

思考と共に、眠気が巡る。静かで、少し寂しい夜。

アトリの部屋を、小型の”機械灯”と”第二の陽”が、優しくも弱々しく照らしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る