1−3
新人類は、旧人類の築き上げた建築物を流用し、局所的にコロニーを作る形で生活している。
しかし、建物ならばどこにだって住めるわけではない。保存状況、耐久性……例えば、高層状や連立したものは倒壊の危険性が高く、移住には適していない。
そのため広い構造物が居住区として使われやすい。ここ、ガッシャマ町もその一つだ。都市部にしては広いスペースで、空間がゆったりと使われている。自然も残されており、ランドマークとして高い塔がある為迷いにくい。
一説には、ここは旧人類と当時の動物が共に暮らしていた楽園の遺跡であるとされているが、あまりに理想的な解釈のため、信憑性は薄いとされている。
「……あなた、素敵ね!」
「えっ。」
そんなガッシャマ町にアトリの元気な声が響く。通りすがりの犬人族の青年に声をかけたのだ。
「おいおい、困ってるだろ、やめなよ……」
「だって素敵じゃない!その武器!」
静止するテックを振り切るアトリ。武器の方を褒められたのか、とがっかりする青年。
「今時”大鎌”なんて、素敵じゃない!ねえ、なんでそれにしたの?力学的に不便だとは思わなかった!?」
「ちょっ……アトリお前まじで……!」
テックは乱暴にアトリの長耳を掴み、引き離すように、申し訳なさそうに去っていく。
「痛いよ〜!耳はダメだって〜っ!」
「”イタい”のはお前だっつーの!」
「……だって気になったんだもん。」
まるで子供が叱られるように、一方で反省する様子もなく、アトリは拗ねている。
「もっと、こう、順序があるだろ。」
「質問は3つまでにしたもん!」
テックが彼女を御する為に提案した、「人に一度に質問できるのは3つまで」というルール。彼女の飛びかかるような好奇心を抑える工夫だ、とテックは考えていたが……結局こういったトラブルは消えなかった。
「そうじゃないんだよなぁ。」
と、テックは呆れた顔をした。体躯の小さな彼だが、その実まるで保護者のようだ。
「とにかく、今日はもう解散だと思うけど。なんかある?」
「う〜ん、稼ぎが少ないよね〜ってくらい?」
「それはアンタのせいだろうが。もうちょい”見る目”を養いなよ。」
「”見る目”には自信あるはずなんだけどなぁ。」
アトリとテックは相棒のような関係だ。ビギナー時代にたまたまコンビを組んで以来、アトリの提案で一緒に探検するようになった。
あくまでも一緒にいるだけ。資産の共有や行動の強制はしない、そんな空気感の奇妙な縁。
「じゃあ、変えるべきは価値観だな。」
皮肉ぶった口ぶりのテック。しかしその実アトリの数少ない理解者であることを、彼自信自覚しているからこそ、逆にこういったことが言えるのだ。
「やだ〜。アイデンティティだもん!」
アトリの自慢げな笑顔が、徐々に傾く陽に照らされて、明るく、可愛く、少しウザったく見えた。
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