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「はい、こりゃあ”ガラス板”だねぇ。」
「違うわ!絶対ガラスじゃない。あれよ、あの透明な、他の……」
街中、冒険者が集うギルドの中で、アトリは鑑定者の猫人族女性、マヌカと口論していた。
「”プラ”とかいう素材かい?確かにあれっぽくもあるが、強度が違うじゃあないか。」
ベチャッと横に広がった顔で不機嫌そうにマヌカは言う。
「そうそれ!強度は違うけど、ガラスともちがうじゃない。状態もいいし、とにかく……」
「まあ、もともとある定義を覆すものでもないさ。ほいよ、納品代。」
そういってわずかな銅貨をチャリンと置く。はした金程度の額だ。
「テック〜、マヌカがいじめる〜!」
「だから言ったろ?金になるやつを探せって。」
そう言ってテックはカバンの中から他のものをジャラジャラと出す。
「ほいよ。”クロス刀”に”透明接着布”、”物書き棒”……まあ、無難な所だね。」
マヌカは銀貨と銅貨をジャラリと並べる。
「……テックだって、レアモノはないじゃない。」
「カス集めるよりは良いんだよーだ。」
口ぶりは意地悪だが、どこか得意げに、テックは猫のような尻尾を揺らした。
「はあ、穴場だと思ったんだけどな。」
アトリは肩をすくめたようにする。
「まあ今時、世紀の大発見なんて出尽くしているさ。」
雑なフォローをマヌカが告げた。
「それに、そういったモノはシルバーランクのお前さんがたの仕事じゃないよ。」
この世界、彼ら新人類は、旧人類の遺した物、つまり”遺物”を分析・再利用することで文明を素早く再構築した。
そのようなサルベージと探索の役割の担い手を”冒険者”と呼び、多くのものが街の外へ駆り出された。
彼らの実力はランクで示される。ストーン級から始まりダイヤモンド級へ。7段階で示されており、シルバー級はその4つ目。ちょうど中間である。
「功績はあるが、大仕事を任せられるほどではない」という微妙な評価。アトリはそれに少々不満げだった。
「ねぇ〜、マヌカが工面して早くランク上げられるようにしてよ。一応ギルマスなんだからさ〜。」
マヌカはこの、ガッシャマ町の冒険者ギルドのマスターだった。と言えども、強い権力や実力があるわけでもない。
まとめ役が他にいないから、なし崩し的に代表役になっただけであった。所謂、形だけの取締役だ。
「はいはい、口より結果で語りな。こういうのは積み重ねなんだからさ。」
「ケチ。」
アトリは絵に描いたような膨れっ面を見せる。本気で悔しがっているのではない、ただのアピールだ。
「まあでも、手付かずのエリアが見つかった訳だし。人に荒らされる前にさっさと回収しようぜ。」
「そうね。きっと未知の発見があるはずだわ!」
「……話聞いてたのかいな。」
窓から見える空は相変わらず嘘のように青く、世界の荒廃なんて知ったこっちゃ無いようだった。
それはアトリの心も同じで、今もまるで地平線を見ているかのような、ただ遠くを見つめていた。
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