遺世界物語
どすこい時雨丸
1−1
ガサゴソ、と。
崩れたものを雑多に漁る音が廃墟に響く。
「これ!結構いいのがあったわ!」
その瓦礫のような山に手を突っ込んでいた女性、アトリは嬉々として、その絵柄のついた透明な板を掲げた。
「えー、それよく見るやつじゃん。”ガラス板”。」
と、そばにいた少年、テックがつまらなさそうに声を上げる。
「これは、きっとガラスじゃないわ!もっとこう、別のなにかで……」
「いいからさー、金になりそうなやつ探そうよ。」
むう、とアトリは頬を膨らませた。でもすぐにキラキラした目でその”ガラス板”を見つめ直し、
「……絵柄が比較的綺麗に残っているわ。描いてあるのは、やはり人物画ね。きっと英雄か何かを崇拝する文化があったのよ。」
興奮した様子で、アトリは長い耳を、ぴょこん、と動かした。
おおよそ人間には生え得ない、ウサギのような長い耳を。
「でもあまりに統一性がないんだろー?どうせフィクションの産物じゃね?」
テックもまた、猫のような長い髭をピクピクさせながら、雑多な山を崩していく。
「ゲホッ、埃くせぇや。」
___この地球から、人間は居なくなった。
いや、出て行ったというのが正確か。
重なる悪環境化に耐えきれず、彼らは解決策を模索した。が、それよりも先に”外に逃げ出す”選択肢が確立された。
地球上を有毒な”黒い花”が覆い、適応できぬ生物は淘汰された。地球は”死の星”となった……はずであった。
しかし、生命というのは、死してもなお、適応を続ける。いつしかその毒に耐えうる生物が生まれ、地球を支配して行った。
そのなかには、人間の”ような”存在がいた。彼らは獣の身体特徴を持ち、人間を模倣するかのように文明を築き上げ、自らを”新人類”と定義し、かつて居た人間達を”旧人類”とした。
これは人類が遺した世界、”遺世界”の物語である___
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