みえた、にびょうごが

サカモト

みえた、にびょうごが

 オレには二秒後の未来がみえる、みえてしまう。

 いまだ誰も知らない二秒後の未来がみえる。理屈はわからないが、そんな未知の能力がある。

 そして、オレが二秒後の未来がみえることは、オレしか知らない。

 そんなオレも、いまは大人になり漫才師になった。そう、漫才が好きだから漫才師になった。

 今夜も劇場の舞台に立つ。相方とふたりで舞台に立つ。

 相方は、オレが二秒後の未来がみえることは知らない。

 オレたちの漫才の主な流れはこうだ。相方が話題をふり、その話題を展開し、その中でおかしなことを言ったら、どしどしと、オレが、つっこむ、そういう様式だ。

 やがて、コンビ名を呼ばれ、オレたちは舞台袖から出て、客の前へ立つ。

 今回の漫才の題材は、マッチングアプリだ。

 まず、相方が口を開く。

「あのね、俺ね、さいきん、どーしても恋人がほしくて、マッチングアプリを試めしてみたんですよ」

「へえ、それでどうなの」

「すぐマッチングしました」

「お、いいじゃないか」

「でもさ、あれって、けっきょく、マッチングアプリを試した俺自身が、マッチングした相手から試される、みたいなカタチになるよね、人として」

「え? なに、どういうこと」

「というのもね、まず待ち合わせ場所ですよ。やっぱり、待ち合わせ場所は重要ですよ。もし、ヘンなところで待ち合わせしようとすると、いきなり相手から減点されかねませんからね」

「へえ、それでどこにしたの」

「実家」

「いきなり実家はだめだろ、むしろ、世界である意味いちばん恐い待ち合わせの可能性あるぞ」

「いやいや、うちの実家、ハチ公像の前にあってさ」

「ハチ公前にあのか、おまえの実家。ってか、ハチ公像の前に住宅的なのねえよ」

「うちの実家、心のきれいな人にしか見えない家なんだ」

「たとえ、心のきれいな人しか見えない家だとしても、その場合は心のきれいな人の負担になるだけだ、そんな妖怪の住処的な家は」

「待ち合わせ時間は二時五十九分にした」

「おい、妙に刻んでるけど、それはとうぜん昼間の二時五十九分だよな」

「あたりまえだよ、昼だよ。すぐ会って三時のオヤツを食べれように」

「マッチング相手が対応しずらい作為を込めた時間設定するなよ」

「相手は二時五十九分丁度に来て」

「向こうも時間合わせたのか。その人、神経質なのかな」

「神経質ではないけど、外見が神経むき出しな感じだった」

「外見が神経むき出しな感じって、人体模型か」

「なんか、心のきれいな人にはそう見えるんだって」

「だから、心のきれいな人に、ひたすら負担がかかるだけだろ、そのシステム。なんだよ、実家と同じシステムで運用されてるのか、お前の生きる世界は」

「で、さっそく、ごはんでも食べてにいきましょうー、ってことになって」

「その出会い方のくせに、その後、滞りなくデートはすすめるんだな」

「なにたべたいー、って、相手に聞いて」

「語尾ぃ! ヤンスって、手下か!」

「相手が、わたし、焼肉食べたいでヤンスって」

「で、どうなったの」

「で、仲良く焼肉食べてな。仲良く焼き肉店でもらったガム食べながら、じゃあ、この後、どうしましょうかー、ってなって」

「ほう、で?」

「彼女は噛んでたガムを、ぷっ、って口から吐き飛ばしてから、わたし、夜景がきれいな場所にいきたーって」

「ガム、口から、ぷっ、て吐く時点で、デート相手として、ほぼゲームーバーな相手じゃないか?」

「で、ふたりで夜景がきれいな場所に移動してさ」

「なんか、デートうまくいってるけど、その相手とデートがうまくいっていることが、お前の人生にとってプラスに働いているかが爆発的に不安だ」

「ふたり並んで夜景を見て」

「でも、いい感じじゃないですか」

「肩に両足のっけて立てに並んで」

「組体操みたいに仕上げて並ぶな」

「俺が、彼女に重くないかい? って聞いて」

「ああ、おまえが上だとは思っていたよ。なにせ、おまえも狂ってやがるからな」

「彼女は、さっき口から吐き飛ばしたガムを、ふたたび、口でキャッチして」

「大道芸の人なのか、職業、その彼女。つか、それ以前に時空を越えてきたのか、ガム」

「いや、けっきょく、その子からは、お付き合いは断られたんだけどな」

「ああ、そうなのか」

「なんかな、その女の子から見たら、俺の外見は神経むき出しな感じに見えるんだってさ」

「相手、心がきれいな人だったんだな。どーも、ありがとうございました」

 と、漫才を終えて、オレたちは舞台袖へはける。

 そして、相方はいった。

「おまえさ、ヤンスのつっこみ、順番まちがえたろ」

 オレへ注意をしてくる。

 だが、相方は知らない。

 ミスしたのではない。オレが、つい二秒後の未来を見てしまったがゆえ、未来へ、つっこんでしまったことを。

 この漫才の中に人類にとって未知の部分があったことを。

 相方は知らない、知る由もない。

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