ちょっとだけ珍道中

鈴懸

第1話 ランの花 ~タイランド~



 今だから笑える最初の失敗談。私もまだ若かった(笑)。



 社会人になって初めての海外旅行は微笑みの国タイ。

 学生時代の友人(ちょっとだけ年上)に誘われて、いざ出発!


 パスポートに押された印が新鮮だった。久々に乗った飛行機が楽しかった。

 タイ航空のカラー、紫色がステキだった。すでに異国の香りがした。


 初日は地方都市のチェンマイ。サワッディーカー!

 最初のホテルにウエルカム・フラワーのランがベッドに飾ってあった。

 それだけでテンションアップ↑。異国に来た感じが一気に増した。


 気候も空気も匂いも日本ではないのがいい!食べ物も美味しい‼

 地方だから日本語も聞こえない!着いただけでワクワクした。




 観光でゾウの施設に行った。ゾウのトレッキングなるものをやっていた。

 ゾウの背中に乗れると聞いて当然、乗ろうということになった。

 広い広場にゾウたちが次々とやってきて観光客を乗せていく。


 私たちの所にやってきたのは、子ゾウだった…。どう見ても子ゾウ。大人のゾウの半分ぐらい。そして、ゾウの頭に乗っていたゾウ使いはもちろん子供だった。小学生高学年ぐらい?の男の子。

 子ゾウはカワイイけどさ。他の西洋人にしたら小ちゃい東洋人だけどさ。


 一瞬、二人でフリーズ。ガイドさんのほうを見たら、手で乗れと合図あり。じゃあ、とカゴに乗って子ゾウが一歩、踏み出したかと思ったら、揺れる、揺れる!

 ビックリするぐらい揺れた。

 そして、広場を1周ぐらいだと思っていたら、なんと山の中へ入って行く!

 ええっ⁉


 ちょっとして揺れに慣れて来た。少し余裕が出て来た。

 男の子に身振り手振り、英語の単語を並べて話しかけてみた。男の子の名前は憶えていない。しかし、子ゾウは「メニィ」ちゃん。よく覚えている!

 男の子に持参した飴だったか、ハイチュウだったかをあげた。メニィにもあげてと渡したら包紙ごとメニィに渡してメニィが口の中にポイッ。いいのか⁉


 そして、男の子は私たちと席を代わってメニィの頭の上に乗せてくれた。初めて触るゾウの皮膚は硬い。そしてチビチビと生えている毛も硬い。はげちょびんだった私の父親の頭の触り心地と似ていて、内心笑った。

 そして、かけ声は「メニィ、フェイ」。「メニィ、行け」と言う意味らしい。

 楽しくて「メニィ、フェイ」を繰り返した。


 ゾウたちは観光客を乗せて、どんどん山奥に入っていった。

 そして、登れば下りは必ず来る。下りはさらに揺れた。大人のゾウは段差をものともせず余裕で下りて行く。しかし、小さなメニィは大人に比べて足が短い。ドン、ドン、と飛ぶように下りて行くから乗っていたカゴが揺れて宙に浮いた。私たちはきゃあきゃあと叫び、カゴにしがみついた。しがみつかないと本当に落ちそうだった。他の外人観光客は余裕で座っていて、私たちを見て笑っていた。


 そして、さらなる難関。河を渡るというのだ。ではなく

 メニィは他のゾウの後を追いかけてどんどん河に入っていく。入るのはいいが、水深が深くなるとカゴの下まで水が押し寄せて来て、私たちはカゴに足を上げなければならなかった。マジ、濡れる…。当然、男の子はびしょ濡れだった。


 そうして、広場を1周ぐらいだろうと思っていたゾウのトレッキングは1時間以上が経過していた。

 楽しかった。が、腹筋が痛かった。メニィ、ありがとう!



 チェンマイの街中を散策していると、観光用の自転車に乗った若い男の人に声をかけられた。片言の日本語で周囲を案内してくれると言う。

 当時は警戒心などあまりなかった。ちょっと無知だった。ちょっとどころではないか…。

 交渉して、金額を決めて案内してもらった。普通の観光では行かない所も行けて楽しかった。いいお兄さんだった。が、後で、地元の日系企業に勤めている日本人に「危ない」と注意された。

 そりゃ、そうだ。今なら絶対やらないだろうな。反省…。



 バンコクに移動して交通渋滞に驚いた。交通マナーもあるのか、ないのか(注;昔です、当時です)。チェンマイとはえらい違いだった。想像していた以上に都会だった。タイのイメージが少し変わった。

 ガイドブックでは分からないことが沢山あった。実際に目で見る、体験することは大切だと感じた。



 あっという間に時間が過ぎ、帰国の途に。ああ、もうちょっと楽しみたかった。


 空港に着いて税関に向かう。

 税関のお兄ちゃんが満面の笑みで私を待っていた。


「その花、どうしたの?」

「ホテルで貰いました!」


 私は手荷物に堂々とランの花を丸見え状態で入れていた。何の躊躇いもなくニコニコと答えていた。


「そう。もう、いいよ」


 税関のお兄ちゃんはニッコリ笑って通してくれた。



 後になって、生花は持ち込み禁止と気が付いた。

 きっと「アホな子やな~」と思われてたに違いない。

 20台前半の無知な私の海外旅行失敗第一号。

 そもそも申告書、ちゃんと読んだのか⁉ 読んだはず。いや、読んだつもり。


 ちなみに、一緒に行った友人は何故か税関に止められて、荷物を開けさせられていた。何、したん⁉ 不審人物には見えないと思うが…。


 私は海外旅行に味をしめた。

 お土産に自分用に買った銀の一輪挿しでランの花をいけて余韻に浸った。




                             fin

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ちょっとだけ珍道中 鈴懸 @yoshinagi

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