第2話 雨ときどき相合傘

 ぽつり、と冷たい感触が落ちた。


「……あ」


 雨が降り始めていた。

 マジか、これから帰ろうって時に振ってきやがった。


「振って来ちゃったね」


「…そうだな、帰るか」


 二人で下駄箱に移動し、靴を履き替え、俺は傘立てに自分の傘を置いてあるのでそれを手に取る。

 その横で近猪さんは自分のカバンの中を見る。


「あっ!」


 大きな声を上げる近猪さん。もしかして…。


「…傘、忘れちゃった」


「やっぱりか」


「てへへ…」


 笑って誤魔化してるけど、外は御覧の通り雨。

 仕方ない、ここは勇気を振り絞って言おう。


「近猪さん、俺の傘に入る?」


 一瞬、近猪さんがきょとんと目を瞬かせた。


「…え?いいの?」


「流石にね、この雨だし。風邪引くのも嫌だしね」


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


 傘を差し、二人並んで歩き出す。


「改めて、ありがとね遠野くん」


「気にしないでよ、それより良く俺のこと覚えてたね」


「同じクラスじゃん、それにお隣の席だしね」


「そ、それもそっか」


 ちょっとしたやり取りだけど、なぜか少し照れる。

 相合傘してるってのもあるけど、距離も近いから余計に気恥ずかしい。

 他愛のない会話をしている時に、近猪さんが俺の方を見る。主に俺の肩を。


「…あれ?」


「近猪さん?どうかした?」


「遠野くん、肩濡れてるよ」


「…あ」


 しまった、バレちゃったか。

 近猪さんが濡れて風邪引くことがないように、彼女の方に寄せていたことがバレた。


「ちょっとくらいあたしが濡れたって平気だよ?」


「大丈夫だよ。それに、こんな可愛い人が濡れて風邪引く方が俺としては嫌だしね」


「……ふぇ?」


 言った瞬間気づいた。やらかしたなと。

 ……やっべ!流れで言っちゃったよ!


「「……」」


 沈黙が訪れる。どうしよ…。

 なんだろう、そんな時間は経ってないんだろうけど、体感バカ長く感じてしまう。


「…そっか」


 小さく、でもはっきりと呟いた次の瞬間──。


 ぎゅっ。


「…ち、近猪さん!?」


 近猪さんが、俺の腕に俺の腕を絡めた。


「ありがとう、でもね?」


 俺と目を合わせて、照れているように、でも逃げずに。


「遠野くんもそれで風邪引くの嫌だから…ね?」


 そう言って蠱惑魔な笑みを浮かべる。


「ち、近猪さん?濡れないようにするなら腕を組み必要は……」


「ダ~メ♪さっ、帰ろ?」


 そう言って、腕を離す気配はない。今日はもうこのままだろう。まあいいか、多分きっと今日限りだと思うから、それに悪い気はしないからね。




 ──そしてこの日を境に、近猪さんと俺との距離が一切無くなったのであった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

主です。


距離近いどころかゼロ距離系女子。


気が向いたら☆とか♡とか👍(?)とか👎(?)とかなんでも良いですので、

よろしくお願い致します!!!

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