第2話 招かれざる客(後)
十分後、クルーは全員、コックピットの後方にある食堂に集められていた。
中央には丸いダイニングテーブルと、人数分のスツールが備え付けてある。
しかし今は、スツールに腰掛ける者、壁にもたれかかる者など、皆が思い思いの場所にいた。
その表情は一様に暗い。
それだけ、エンジニアであるエリックからもたらされた左舷の被害状況は深刻だった。
第二発電機はシャフトがひしゃげ、蓄電機構にも亀裂が入っており修理することは不可能だった。
第一発電機も原因不明の停止状態にある中、船内の電気は右舷にある太陽光電源で賄われている。
二重のハッチで保護しているとはいえ、第二電力室の壁に開いた亀裂から常に空気が漏れ続けている中、サイレンと警告音声が止んでいるのは、手動で止めたからに他ならない。
対応しようのないアラートに貴重な電力を割く余裕など無いのだ。
「エンジンは直せない訳?」
重苦しい空気の中、ベティが口を開いた。
左舷の動力を全て失ったがために、安全装置が働いて右舷の動力が停止している──というのがエリックの見立てである。
「後方の2機は無理だな。ペチャンコだ、見る影もなくな。前方の1機は形だけなら無事そうだが、動かないんだろ?破片でも噛んだか……」
エリックがため息混じりに首を振った。
「そもそも、僕らは何にぶつかったのでしょう」
床に体育座りしているチャンミンが、ボソボソと呟いた。
「レーダーには何も映っていませんでした」
「アタシも保証する。
「それであそこまでの亀裂になるってんなら、この船はとっくに穴だらけだな」
「じゃあ何だってのよ、エリック。船体周りに破片も浮いてなかったんでしょ?だったら隕石だってあり得ない」
「まさか、私たちはどこかの星系から攻撃を受けたのでしょうか」
フェイの一言に、会話をしていた三人がギクリと表情を硬くした。
「ちょっと、怖いこと言わないでよフェイ」
「でも……」
「星間戦争なんて何世紀前の話よ。ねぇ、アイザック」
同意を求められ、アイザックは「そうだな」と重い口を開いた。
「可能性としてはゼロじゃないが、確かめようがない。追撃を受けている訳でもない以上は、棚上げだ。それより、いま考えるべきは今後のことだ。ここで救助を待つにしても、ドナ、船内の物資はどの程度もつ?」
「う……水や食料は節約すれば二、三日はもつと思うけど……問題は酸素だよ。プラントを動かすには電気がいる。でも、ボクたちはいま、多分だけど、惑星ケネスの公転軌道の影にスッポリ入っちゃったんだと思う」
「それって、どういう……」
「つまりね、フェイ。当面、昼間は来ないってこと」
「え、でも右舷は太陽光発電機なんじゃ……」
「そう。今はケプラーβで溜めたエネルギーで動いてるけど、それがなくなったらスッカラカン。酸素プラントが動かなくなっちゃう。もって半日……いや、船体の損傷も考えると下手したら4、5時間ってところかも」
「俺も同じ見立てだな」
ドナの言葉に、アイザックも頷いた。他の者も、胸の内では同じように考えていたに違いない。
フェイだけが、真っ青な顔で「そんな……」と絶句していた。
「救難ポッドを使おう」
アイザックが言った。
星間航行の事故率が百万分の1を切って久しいが、全ての宇宙船には、不測の事態に備え乗員と同じ数だけの救難ポッドが用意されている。
いわゆる
「止むを得ねぇだろうな」
エリックが頷くと、ベティも
「火星から一日の距離だもの、長い昼寝みたいなもんよね」とうそぶいた。
皆が口々に強がりを言う中、しばらく黙っていたチャンミンが再びボソボソと口を開いた。
「アイザック。この船は何人乗りですか」
「5人乗りだか……今さらそんなことを聞いて、どうした?」
「そうよ、チャンミン。どうしちゃったの?アンタ、さっきからなんか変よ。衝突の責任感じてんなら、それはアタシが──」
「そうじゃない!!」
「チャンミン?」
「この船は5人乗りです。その通りだ。そこのスツールも5つ、救難ポッドも5つ。ですが、僕らはいま──6人います!」
チャンミンの言葉に、全員が言葉を失った。
船長のアイザック。
副船長のベティ。
操縦士のチャンミン。
そしてエンジニアのドナ、エリック、フェイだ。
「まさか……ニア?」
思わずその言葉がドナの口からこぼれ出た瞬間、アイザックの怒声が食堂に響いた。
「全員しゃべるな!!」
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