第41話 真珠の輝き


​翌朝、葉弍は意気揚々と村の役場へと向かった。「エコ真珠」の独占契約を取り付けるための最終交渉だ。私はその後ろを、気だるげについていく。

​役場の応接室で私たちを待っていたのは、村長の大森と、スーツ姿の冷徹な男たちだった。


​「いやあ、葉弍さん。貴方のようなやり手の方に我が村の真珠を扱っていただけるとは、光栄です。これが我が村の誇る『エコ真珠』ですよ」


​大森が机に並べた真珠は、完璧な円形を描き、虹色の光を放っていた。だが、私はその真珠の奥に、鉛のような不気味な鈍色が混じっているのを見逃さなかった。


​葉弍は真珠を一つ手に取り、鑑定ルーペで覗き込む。


​「……ほう。確かに見た目は最高だ。だが、村長さん。一つ気になることがあるんだ。昨夜、浜の方で妙な黒い泡が浮いているのを見た。おまけに、漁師たちが『最近の真珠は妙に重い』なんて噂してやがる。効率的に商売をやるには、リスクは先に潰しておきたいんでね」


​大森の笑顔が一瞬で凍りついた。隣にいたスーツの男が、低い声で割って入る。


​「……葉弍さん。それはただのプランクトンの影響です。余計な詮索は、ビジネスの速度を落とすだけですよ」


​「けっ、速度だぁ? 嘘を積み上げた速度なんてのは、事故の元だわ!」


​葉弍は真珠を机に叩きつけるように置いた。商談は決裂。私たちは追い出されるように役場を後にした。


​帰り道、港の隅で網を繕っていた若い漁師に声をかける。彼は怯えた目で周囲を気にしながら、声を潜めて言った。


​「……旦那、あれ以上深く探るのはやめておけ。昔、公害を調査しようとした奴らがどうなったか。村の連中はみんな知ってるんだ。あの海の下には、開けちゃいけない蓋があるんだよ」


​その時だ。


​突如として海面が激しく盛り上がり、港全体を揺らすほどの大きな震動が走った。


​「ちぇ。面倒くさい。……蓋が、内側から叩かれているぞ」


​私は海を指差した。美しい碧色の海面に、底から湧き上がってきたような漆黒のヘドロの塊が、ドロリと浮かび上がっていた。

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