第34話 純粋な力



​私の純粋な破壊力によって、チンピラの一人は壁に叩きつけられ、瞬時に戦闘不能となった。


​残りの二人のチンピラは、目の前で起きた光景に完全に凍り付いていた。彼らは、私の赤い目と、銀色の腹筋から放たれる人間離れした威圧感に、恐怖を覚えた。


​「な、なんだこいつは……」


​彼らは、葉弍の小細工には動じなかったが、私の効率的な暴力は、彼らの恐怖という最も原始的な感情を呼び起こした。


​私は、彼らに一歩近づいた。


​「もう一度言う。面倒くさいことをするな」


​チンピラの一人が、恐怖のあまり持っていた鉄パイプを落とし、逃げようと背を向けた。


​葉弍はすぐに、そのチンピラの足元に足をかけて転倒させた。


​「逃げるなよ!俺の機材を壊したんだぞ!」


葉弍は言った。


​しかし、私は葉弍を制した。


​「もういい、葉弍。私の目的は、暴力による優しさの擁護だ。お前の金の回収ではない」


​私は、倒れているチンピラと、恐怖で震えている最後のチンピラを見下ろした。


​「お前たちが、リアムの音楽や金を奪おうとすれば、再び私の純粋な破壊力が、お前たちを襲う。これが、面倒くさくないルールだ」


​残りのチンピラたちは、仲間の倒れた姿と、私の無表情な暴力の前に、戦意を完全に喪失した。彼らは、壊れた機材と、路上に散らばった現金をそのままに、這うようにして逃げ去った。


​静寂が戻ったストリートで、リアムはまだ震えていた。


​私は、リアムに向き合った。彼は、壊されたマイクスタンドの残骸を見て、涙ぐんでいた。


​「あ、ありがとう……アホライダーさん」


リアムは言った。


「僕の音楽を、優しさを、守ってくれて……」


​葉弍は、路上に散らばった現金を拾い集めながら、リアムに言った。


​「ちぇ。感謝するなら、今度の機材代をちゃんと払えよ。俺の金なんだぞ」


​私は、リアムを観察した。彼は、私の暴力によって守られた。

しかし、彼の顔には、以前の穏やかさも、成功した時の喜びもなかった。あるのは、恐怖と、金銭的な成功への執着だ。


​「リアム」


私は言った。

「アンタの優しさは、私の純粋な力によって守られた。だが、金というノイズが入った優しさは、以前の無償の優しさではない」


​リアムは、顔を上げた。


​「僕は……もう、わからなくなりました。歌えば歌うほど、お金が入ってきて、みんなが穏やかになる。でも、そのせいで、こんな怖いことが起きて……」


​彼は、「金銭的な成功(効率)」と、「無償の優しさ」という二つの面倒くさい矛盾に、完全に引き裂かれていた。


​葉弍は、現金の回収を終え、私に向き直った。


​「おい、アホライダー。これで、リアムの優しさの探求は終わりだろ。あいつはもう、優しさの標本じゃねぇ。ただの金に囚われたミュージシャンだ」


​「ああ、そうだな。彼は、『金によって優しさは壊れる』というヒントをくれた」


​「なら、次の面倒な場所へ行くぞ。これ以上、イギリスにいるのは、効率が悪い」

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