第30話 決勝



​ダニエル親子の面倒くさい愛の形を目の当たりにした後、私は葉弍と共に控え室に戻った。葉弍は、ダニエルとの試合で負った顔面の傷を冷やしていたが、その目は再び金の輝きを取り戻していた。


​「ちぇ。面倒くさいことをしたな」


私は言った。


「優しさの探求のヒントは見つかった。もう、金以外のことは考えなくていい」


​葉弍は頷いた。


​「ああ。ダニエルは、自分の愛を証明した。俺がやるべきことは、金を稼ぐことだ。これ以上、情に流されるのは効率が悪い」


​決勝の相手


​ボクシング大会の決勝の相手は、もう一方のブロックを勝ち上がってきた、プロのボクサー崩れ「アイアン・マイク」という男だった。彼は、粗暴で、金のためなら手段を選ばない男として知られている。


​アイアン・マイクは、私の控え室のドアを乱暴に開けて入ってきた。


​「おい、全身黒のピエロ!お前が決勝の相手か?」


​私は赤い目で彼を見上げた。


​「違う。決勝は、俺の相棒だ」


​「フン。スカジャンのチビか。俺の拳で、お前らの金儲けの夢を終わらせてやる」


アイアン・マイクはタメ口で、嘲るように言い残し、去っていった。


​「ちぇ。面倒くさいヤツだ」


私は煙を吐き出した。


「早く終わらせろ、葉弍」


​「わかってる」葉弍は言った。


「これで、イギリスでの金稼ぎは終わりだ。最高の効率で終わらせてやる」


​決勝戦:葉弍 vs. アイアン・マイク


​リングに上がった葉弍は、ダニエルとの試合とは一変し、いつもの卑怯でふざけた表情に戻っていた。彼の目的は、効率的に金を得ることだ。


​対するアイアン・マイクは、荒々しい戦い方で、最初から葉弍を圧倒しようと襲いかかった。


​ゴングが鳴る。


​アイアン・マイクは、プロボクサーらしい重い連打を放つ。葉弍は、彼のパンチを避けながら、リングを逃げ回った。


​「おい!逃げるな、スカジャン!」


アイアン・マイクは苛立った。


​葉弍は、アイアン・マイクが苛立ちでガードが緩んだ瞬間を待っていた。葉弍は、ダニエルのような真面目な努力ではなく、裏社会で培ったダーティな勘と、効率的なカウンターに集中した。


​葉弍は、アイアン・マイクのフックを潜り抜け、彼の腹部に向けて、寸止めするような軽いジャブを何発か打ち込んだ。


​「なんだ、そのパンチは!?効かねぇぞ!」


​アイアン・マイクは怒り、さらに強く、大振りのフックを放った。


​その瞬間だ。


​葉弍は、アイアン・マイクが放ったフックの遠心力を利用し、体を回転させて、肘を相手の顎に叩き込んだ。


​ボクシングでは反則となる、ダーティな肘打ちだ。


​「ガハッ!」


​アイアン・マイクは、予想外の反則攻撃に悶絶し、リングに膝をついた。

​レフェリーはすぐさま葉弍に減点を宣告したが、葉弍は構わない。彼は、アイアン・マイクが立ち上がろうとする隙を見逃さず、顔面への連打を浴びせた。


​ドスッ!ドスッ!


​アイアン・マイクは、卑怯な攻撃と連打に、意識を保つことができず、そのまま倒れ伏した。


​「テン!」


​レフェリーは葉弍の反則攻撃による減点を計算したが、結局、アイアン・マイクは立ち上がることができず、葉弍のKO勝ちが宣告された。


​会場は、葉弍の卑怯な戦い方に騒然となった。


​葉弍は、リング上で大声で叫んだ。


​「勝ちは勝ちだ!金は、効率的に手に入れるのが、一番面倒くさくないんだよ!」


​私は、冷静にその結果を受け入れた。葉弍は、ダニエルとの試合で感情的になった後、再び自身のルールに戻った。


​「フン。面倒くさくない勝利だ」


​私はそう結論づけ、葉弍の元へ向かった。


​これで、私たちは優勝賞金と、イギリス滞在中に使える十分な金を手に入れた。


​しかし、私の優しさの探求は、ダニエル親子のヒントを得たばかりだ。このイギリスをすぐに離れるのは、効率的ではない。

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