第26話 イギリスへ


​VFTトーナメントで優勝賞金を手にした私は、緑のスカジャンを着た相棒と共に向かう


​「おい、アホライダー!今回の賞金で、俺たちはしばらく遊べるぞ!遊びもまた金儲けの効率を高めるんだ!」


ゼニクレマンは興奮気味に言った。


​「ちぇ。面倒くさい」


私は答えた。


「アンタがさっさと次の金になる場所を見つける方が、私にとっては一番効率的だ」


​ゼニクレマンはすぐに、世界中から情報を仕入れた。


​「見つけたぞ!イギリスのロンドンだ!向こうで地下格闘技とは別の、賞金付きの過酷な競技大会があるらしい。規模はデカいぞ!」


​「過酷な競技か。暴力よりは面倒くさくないかもな」


​ロンドン行きの飛行機の中で、私は窓の外を眺め、優しさの定義について考えていた。


隣のゼニクレマンは、緑のマンバンヘアを揺らしながら、やけに真面目な顔をしていた。


​「なあ、アホライダー」


ゼニクレマンは言った。


「俺たち、これから一緒に旅をするんだろ?それなのに、俺たちの名前がお互い『ゼニクレマン』と『アホライダー』ってのは、さすがに面倒くさいだろ」


​「ああ?アンタの名前なんて、どうでもいい」


​「どうでもよくねぇよ!俺の本名はな……葉弍 弥助(ばに やすけ)だ」


葉弍は、少し照れくさそうに言った。


​「へえ。葉弍 弥助か。面倒くさそうな名前だな」


​「うるせぇよ!これからは葉弍って呼べ。アンタの本名は、俺は聞かねぇけどな」


​「フン」


​ロンドンでの観察


​ロンドンに到着した私たちは、大会会場近くのホテルにチェックインし、階下のレストランで食事をすることにした。


​葉弍は、


「勝者の食事はデカくなければいけない!」


と言って、大きなステーキを注文した。私は食事をとれないので、ただ黙って葉弍が勢いよく食べるのを眺めているだけだ。


​「おい、葉弍。アンタが飯を食ってるのを眺めているのは、最も面倒くさい時間だ」


​「うるせぇな。勝者の優越感なんだよ」


​私は、その退屈な時間が耐えられず、外に出た。ロンドンの街は、ラスベガスのギラギラした欲望とは違い、湿っていて重苦しい雰囲気が漂っていた。


​レストランのテラス席を横切ったとき、私は一つの家族に目が留まった。

​そこにいたのは、三十代後半くらいの男と、その息子であろう5歳くらいの子供だ。子供は楽しそうにジュースを飲んでいる。


​「家族か。これは、私の優しさの探求に役立つかもしれない」


​私は、少し離れた植え込みの影に隠れ、彼らをしばらく観察することにした。


​すると、そこに迫力のあるおじいさんが険しい顔をして現れた。おじいさんは、男を見るなり、激しい口調で話し始めた。


​私は、無駄に優れた聴力で、彼らの話を盗み聞きした。

​どうやら、三十代後半の男は、奥さんと離婚しているらしい。そして、このおじいさんは、その奥さんの父親、つまり男の元義父だ。


​男は、おじいさんに対し、必死に頭を下げていた。


​「お願いします、お父さん!もう一度チャンスをください!私は、あいつと、息子と、もう一度家族になりたいんです!」


​男の懇願する声には、金への執着とは違う、面倒くさいほどの切実さが込められていた。


​私は、この「離婚した家族を修復しようとする男」という状況に、優しさの定義の大きなヒントがあると感じた。


​「家族というものは、最も面倒くさくて、最も壊れやすい優しさの標本かもしれないな」


​私はそう結論づけ、彼らの様子を、さらにどうでもいいという顔で観察し続けた。

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