第23話 決勝の相手は
準決勝をKOで突破した後、私はゼニクレマンと一緒に観客席の目立たない場所に座り、もう一方の準決勝を待った。
私はタバコを吸いながら、隣で騒いでいるゼニクレマンを見た。彼は緑と金のスカジャン姿で、興奮気味だ。
「おい、アホライダー!あのサイレント・キッドを一撃で沈めるとはな!これで決勝だぜ。決勝の賞金はデカいぞ!」
ゼニクレマンは、目をギラつかせて言った。
「ああ、知ってる。面倒くさい金の話は、後でいい」
私はリングに視線を向けた。
「それより、次の相手が誰になるかだ。面倒くさいヤツだけは勘弁してほしい」
ゼニクレマンは、私のために持ってきた大きなポップコーンを口に放り込みながら、トーナメント表を指差した。
「次は、Cブロック勝者とDブロック勝者の戦いだ。候補は絞られてるぞ」
準決勝:Cブロック勝者 VS Dブロック勝者
リングアナウンサーがコールする。
「準決勝第二試合!Cブロックを勝ち上がった、元プロボクサーの高速パンチ、ジャック・ポット!」
「対するは、Dブロックの勝者!謎の覆面ファイター、情報ゼロの強豪、Mr.ゼロ!」
ゼニクレマンはポップコーンを食べる手を止めた。
「チッ、面倒くさい組み合わせだな」
ゼニクレマンは言った。
「ジャック・ポットは、パンチのスピードは速いが、手数が多い分、カウンターを食う可能性がある。だが、Mr.ゼロはもっと面倒だ。情報は全くない。覆面だから表情も読めねえ。こういう未知の相手は、賭けにくいから嫌いだ」
カン!
試合は予想通り、ジャック・ポットの高速ラッシュから始まった。彼のパンチは、まるで嵐のようだ。しかし、Mr.ゼロは動かない。
ただ、最小限の動きで、その嵐のようなパンチを全て寸前で避けている。
「なんだ、あいつ」
私は赤い目でMr.ゼロの動きを分析した。
「私の回避術と似ている。力を無駄にしない。面倒くさくない動きだ」
Mr.ゼロは、ジャック・ポットのパンチの連打が止まった、その一瞬の呼吸の隙を見逃さなかった。
シュン!
Mr.ゼロの拳が、ジャック・ポットのボディに突き刺さった。
それは、派手さのない、ただのストレートだ。しかし、その威力は、ジャック・ポットの全身の力を奪い去った。
ジャック・ポットは、高速のパンチを繰り出す力も、呼吸すらも奪われ、その場に崩れ落ちた。
「テン!」
ノックアウト! 準決勝は、Mr.ゼロの圧勝で終わった。彼の戦術は、サイレント・キッドのスピードのカウンターよりも、私の一撃必殺の暴力に近かった。
「ちぇ……」
私はタバコの煙を吐き出した。
「決勝の相手は、Mr.ゼロか。予想通り、面倒くさくないヤツが勝ち上がったな」
ゼニクレマンは、口についたポップコーンのカスを拭いながら、真剣な顔になった。
「いや、違うぞ、アホライダー」
ゼニクレマンは言った。
「あいつの動き、そしてあのパワー。情報がないってことは、裏社会の誰かがデカい金を動かすために送り込んできた可能性が高い。あいつは、金の匂いがするぞ」
「金か。私にはどうでもいい」
「どうでもよくねえよ!アンタが勝てば、もっとデカい金になるんだ!」
ゼニクレマンは興奮気味に、決勝戦での戦略を語り始めた。しかし、私の意識はすでに、謎の覆面ファイター、Mr.ゼロに向かっていた。
私の「暴力による効率」と、Mr.ゼロの「未知の力による効率」。優しさの探求を再開するための、最後の面倒くさい取引だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます