第22話 スピードと純粋なパワー
ゼニクレマンという、おふざけな相棒を得た翌日、VFTトーナメント準決勝が始まった。
ゼニクレマンは、緑色のマンバンヘアに緑と金のスカジャンという派手な格好で、私の隣で観戦していた。
「おい、アホライダー。あのサイレント・キッドってやつ、ヤバいぞ」
ゼニクレマンは言った。
「あいつは、効率を極めた暗殺者だ。どうせ組むこともねぇだろうが、あのスピードは面倒くさい」
「ああ、知ってる」
私は赤い目でリングを見つめた。
「だが、私は金のために来た。そして、私は暴力を使う。優しさの探求に忙しいんでな、早く終わらせるだけだ」
私の思考はシンプルだ。サイレント・キッドの「スピードの効率」を、私の「純粋な力の効率」で上回ればいい。
「準決勝!Aブロック勝者、無職の挑戦者、アホライダー!対するは、Bブロック勝者、スピードの暗殺者、サイレント・キッド!」
歓声の中、私はリングに上がる。サイレント・キッドは、無表情で私を見据えていた。彼は殺意の波動ではなく、計算された無関心を放っている。
ゴング!
試合開始の瞬間、サイレント・キッドは動いた。彼の動きは残像だ。彼は、私の最も効率的なKO距離を把握し、そこから常に半歩外れた位置を取り続ける。
シュッ!
私の黒いスーツの横を、サイレント・キッドの拳が風を切って通り過ぎた。彼は私に打撃を当てるつもりはない。彼の目的は、私の強力なパンチを誘い、その隙にカウンターを叩き込むことだ。
「ちぇ。面倒くさい動きだ」
私は攻撃を仕掛けなかった。サイレント・キッドの戦術は、私が先に動けば、私の動きを読んで二歩目のカウンターを仕掛けることだ。
数秒間、リングは静止した。観客は戸惑っている。
「なんだ?アホライダー、動けよ!」
ゼニクレマンがリングサイドから叫んだ。
「あいつの体力削るぞ!」
しかし、私は動かない。動けば、相手の思うツボだ。
「アンタが優しさの定義を探してるように、私は最も面倒くさくない勝利の定義を探してる」
私の狙いは、サイレント・キッドの「効率の限界」だ。
サイレント・キッドは、私が動かないことに苛立ちを見せ始めた。計算が狂ったのだ。
ヒュッ!
サイレント・キッドは、ついに自ら仕掛けてきた。彼は、私の顔面を狙って高速のジャブを放ちながら、一瞬で踏み込んできた。
私は、彼のスピードを全て受け入れた。私の赤い目は、彼の筋肉の微細な動きまで捉える。
私が逆上がりで培った無駄を削ぎ落とした身体は、彼のジャブを紙一重で回避した。彼は驚き、次のカウンターの体勢に移ろうとした。
その一瞬の硬直こそが、私の狙いだ。
「遅いな」
私は、彼のカウンターの準備が完了する0.1秒前に、踏み込んだ。
そして、私の銀色の腹筋が震えるほどの、純粋な暴力を叩き込んだ。初戦、二回戦で相手を沈めた、あの半殺しの拳だ。
今回は、一発で仕留めるための、最短距離からの右ストレート。
ドゴォオオオン!!
サイレント・キッドは、自分のスピードとカウンターが通用しなかったことに、驚愕の表情を浮かべたまま、そのままリングに倒れ込んだ。
彼の「効率」は、私の「純粋な力」という、もっと面倒くさくない効率の前には無力だった。
レフェリーのカウントが、静まり返った会場に響き渡る。
「テン!」
ノックアウト! 準決勝も、私の圧勝で幕を閉じた。
「ちぇ。面倒くさくなくてよかった」
私はそう呟き、ゼニクレマンが待ち構えるリングサイドへ向かった。
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