第21話 新しい仲間



​私の二回戦TKO勝利後、トーナメントはBブロックの試合へと移った。私はタバコを吸いながら、次の対戦相手を決める試合を、どうでもいいという顔で眺めた。


​Bブロック一回戦:サイレント・キッド VS "Dr.ボーン"


​まずリングに上がったのは、無表情な暗殺者、サイレント・キッドと、元外科医の柔術家、**"Dr.ボーン"**だ。


​ゴングが鳴ると、Dr.ボーンは即座に関節を狙う構えに入った。しかし、サイレント・キッドのスピードが圧倒的だった。


彼はDr.ボーンが組みつく前に、一歩踏み込み、最も効率的にDr.ボーンの顎に、寸分の狂いもなくカウンターパンチを叩き込んだ。


​ドスッ。


​Dr.ボーンは、関節技を見せる間もなく、糸の切れた人形のように倒れ伏した。


​「チッ。早いな。あのスピードでやられたら、関節を極めるヒマもない。面倒くさくないKOだ」


​サイレント・キッドは、まさにスピードとカウンターの効率を体現していた。


​Bブロック二回戦:ビッグ・ママ VS "レイヴン" クロウ


​続いて、規格外の体格を持つビッグ・ママと、賭け事のプロ、レイヴン・クロウの試合だ。


​レイヴン・クロウは知的な戦術でビッグ・ママの動きを読もうとしたが、ビッグ・ママの単純な体重と圧力には及ばなかった。


ビッグ・ママは組まれた瞬間にその巨体でレイヴン・クロウを圧し潰し、観客から悲鳴が上がるほどの単純な力で、彼をマットに縫い付けた。


​レイヴン・クロウは完全に身動きが取れなくなり、レフェリーが危険と判断して試合をストップ。TKOだ。


​Bブロック三回戦:サイレント・キッド VS ビッグ・ママ


​準決勝の相手を決める試合は、サイレント・キッドの「スピード」とビッグ・ママの「質量」の対決となった。


​サイレント・キッドは、ビッグ・ママに一切組まれないように、リングを広大に使って逃げ回った。


そして、ビッグ・ママが疲労と苛立ちで動きが鈍った瞬間を見逃さず、的確な打撃を連発。急所を避けたパンチだが、その累積ダメージでビッグ・ママは次第に体力を奪われていった。


​最終的に、ビッグ・ママは立ち上がることができなくなり、レフェリーがカウントテン。TKO勝利で、サイレント・キッドが準決勝に進出を決めた。


​「ちぇ。面倒くさくても、効率を極めれば勝つ。やはり私の暴力が一番面倒くさくないが、あのスピードもなかなかだ」


​私はタメ口で、次の相手がサイレント・キッドだと確信した。


​その日の全試合が終わり、私は控え室を出た。手に入れたファイトマネーはわずかだ。私は野宿しようと、ラスベガスの大通りとは逆の、寂れた裏路地へと向かった。


​「金もないのに、ホテルなんかに泊まるのは面倒くさい。野宿が一番効率的だ」


​私が路地裏のベンチに座ろうとした、その時。


​「おい、アホライダー!」


​声のした方を振り返ると、そこには担架で運ばれていったはずの、全身緑色のタイツ男、ゼニクレマンが、少し足を引きずりながら立っていた。彼は相変わらずのタメ口だ。


​「アンタ、なんでこんなところで油売ってんだよ!アンタは準決勝進出だろ?一流のファイターが野宿なんて、見てて気分が悪い。金を生まないからな!」


​「ああ?アンタには関係ないだろ。私は金がない。ホテルに泊まるのは面倒くさい」


​「そんなことどうでもいいんだよ!」


ゼニクレマンは、ふざけた口調で言った。


「俺はアンタに負けたけど、アンタが勝てば俺も儲かる可能性がある。それに、カンチョーで負けたヤツが、勝者の面倒を見てやるのは、なんか面白いだろ?」


​ゼニクレマンは、私の手にホテルのキーカードと、いくらかの現金を握らせた。


​「とりあえず、これ使って休んでおけ。私はホテルで待ってるぞ」


​私は、彼の予想外の行動に、少し面食らった。


​「ちぇ。面倒くさいことをするヤツだ」


​しかし、野宿よりもホテルのベッドの方が遥かに快適で面倒くさくないのは事実だ。私は彼の誘いを受け、ゼニクレマンの部屋へと向かった。


​ホテルの部屋で、私はベッドに腰掛け、タバコを吸った。ゼニクレマンは、関節を痛めた腕を気にしながら、私に向かい合って座った。


​「改めて自己紹介だ、アホライダー」


ゼニクレマンはタメ口で言った。


「俺は賞金旅人だ。世界中のカジノ、裏格闘、危険な競争……金になる場所ならどこへでも行く」


​「賞金旅人?私と一緒か。優しさの探求のついでに、金を稼いでいる無職だ」


​「フン。優しさとか、最も面倒くさいテーマを追ってるとはな。だが、金への執着は本物だろ」


ゼニクレマンは笑った。


「アンタの暴力と、俺のおふざけがあれば、世界中の賞金を効率的にかっさらうことができる」


​ゼニクレマンは、彼の全身タイツと同じ、緑色の小さな地図を広げた。


​「アンタは優しさを探求し、俺は金を稼ぐ。目的は違えど、やっていることは同じだ。どうだ?面倒くさい世界中の大会を、二人で効率的に回るというのは。その方が、一人で野宿するより、よほど面倒くさくないぞ」


​私は赤い目で、ゼニクレマンを見た。彼の提案は、私の「優しさの探求を再開するための金稼ぎという目的を、最も早く、最も面倒くさくない形で達成できる道だ。


​「ああ、いいぞ」


私はタバコの煙を吐き出した。


「面倒くさいが、一人でいるよりはマシか。よろしくな、おふざけ野郎」


​「おう!よろしくな、無職のヒーロースーツ!」


​こうして、アホライダーとゼニクレマンの、「優しさ」と「金」を追う、最も面倒くさい旅が、ラスベガスから始まったのだった。

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