第20話 関節技は決めさせない
VFTトーナメント二回戦。会場の熱気は、初戦よりも増していた。一回戦で"ブルート" ジョーを一撃KOした私の半殺しの暴力が、観客の間で大きな話題になっているようだ。
私の対戦相手は、裏世界の関節職人、ザ・スコーピオン。彼はゼニクレマンの醤油とカンチョーという最も卑怯な攻撃を耐え抜き、冷静に関節技でタップアウトを奪った実力者だ。全身タイツのふざけた男とは訳が違う。
リング中央で向かい合う。ザ・スコーピオンは、私のような一発屋のストライカーを警戒しているのが見て取れる。彼はタメ口で冷静に話しかけてきた。
「おい、アホライダー。アンタの暴力は、確かに底知れない破壊力だ。だがな、私の関節技は効率よく戦闘不能にする、最も優れたな技術だ。アンタの無気力な力は、私のグラウンドで封じさせてもらう」
「フン。面倒くさいことを言うな」
私はタメ口で返した。
「私は金のために来た。そして、私は力を使う。アンタの面倒くさい関節で私の足を止められるなら、やってみろ。私は、優しさの探求に忙しいんでな、早く終わらせてくれ」
カン!
試合開始の瞬間、ザ・スコーピオンは一切打撃を交わさず、低い姿勢からタックルを仕掛けてきた。彼の目的は明確だ。私を地面に引きずり込み、関節技でギブアップを奪うこと。
「チッ、面倒くさい!」
私は赤い目で、素早く対応した。タックルを受ける直前、私は逆上がりの要領で体を回転させた。これは私にとって基本的な身体操作だ。
ザ・スコーピオンは、私の足首を掴もうとしたが、私は空中で体を反転させ、彼の背後に着地した。彼のタックルは、私の無駄な力を使わない回避術によって、完全に無効化された。
観客がどよめく。格闘技のセオリーからかけ離れた、アホライダーの動きだ。
「なんだ、今の動きは!?」
ザ・スコーピオンは驚きを隠せない。
「これは逆上がりだ。アンタの関節技よりも、よほど面倒くさくない技術だぞ」
私はタメ口で言い放った。
ザ・スコーピオンは戦略を変更した。打撃で私を崩すのは危険だと判断し、今度は自分の得意な距離に持ち込むため、私との間合いを詰めて組みつきにきた。
彼が私の黒いスーツを掴んだ瞬間、彼の狙いは私の腕や首の関節だ。
「捕まえたぞ!これでアンタの暴力は終わりだ!」
「ちぇ。面倒くさい」
私は、無理に力で振りほどくことはしない。それは力の無駄遣いだ。
私は、彼の関節技のセオリーを知っている。彼の狙いは、テコの原理で私の関節を曲げること。
私は、彼の組みつきを利用して、そのまま自身の体をリングのロープ目掛けて投げた。そして、ロープに足をかけた瞬間、逆上がりの要領で再び回転し、ザ・スコーピオンを巻き込む形で地面に倒れた。
しかし、倒れた位置が重要だ。私は、自分の体が上になるように、マウントポジションを取った。
「くそっ!この動きは……!」
ザ・スコーピオンは焦り始めた。彼はグラウンドでは絶対的な自信を持っていたからだ。
私は、マウントポジションから、容赦なく暴力を振るい始めた。優しさも、躊躇もない。金のためだ。
ドスッ!ドスッ!
私の銀色の腹筋から繰り出される拳は、ザ・スコーピオンの顔面を的確に捉えた。その一発一発は、初戦でジョーを沈めた半殺しの暴力と同じ、純粋な破壊力だ。
「やめろ!これは、関節の試合だ!」
ザ・スコーピオンは叫んだが、私の暴力は止まらない。
私は、彼の関節を極めるという面倒くさいプロセスを完全にスキップし、最も効率的な暴力で、彼の戦闘能力を奪いにかかった。
わずか数発のパンチで、ザ・スコーピオンの意識は遠のいた。
レフェリーが慌てて割って入る。
「ストップ!ストップ!」
レフェリーは試合を止め、私のTKO勝利を宣言した。
ザ・スコーピオンは、最後まで関節を極めることすらできず、私の「面倒くさい」という哲学の前で、力なくマットに沈んだ。
「ちぇ。やっぱ、暴力が一番面倒くさくないな」
私はタメ口でそう呟くと、リングを後にした。二回戦突破だ。
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