第18話 暴力の効率



​ラスベガスの地下特設リングは、熱狂的な歓声と、裏社会の連中が吐き出すタバコの煙で満たされていた。カジノのセキュリティを掻い潜って集まった観客の多くは、このトーナメントに巨額の金を賭けている。


​私のファイトネーム、アホライダーがコールされると、歓声は嘲笑と困惑の混ざったものになった。黒いスーツ、銀色の手袋、銀色の筋肉、ニッコリ笑顔のマスクという私の姿は、この場では異質なのだ。


​「次!Aブロック第一試合!銀色の腹筋を持つ無職の挑戦者、アホライダー!対するは、殺意の用心棒、"ブルート" ジョー!」


​私の対戦相手、"ブルート" ジョーは、全身タトゥーの大男だ。彼は、控室で私に絡んできた男とは違い、本物の殺意を瞳に宿している。


​「おい、ピエロ。リングに上がったら、誰も助けちゃくれねぇぞ。俺は優しさとか知らねぇ。お前をミンチにして、賭け金をいただく」


ジョーはリング上で、私に向かってタメ口で吠えた。


​私はリングの中央で向かい合う。タバコは吸わない。今は、金を稼ぐという最も効率的な目的に集中する。


​「ああ?優しさとか今はどうでもいい。それに、誰も傷つけないってルールも、金のためなら、面倒くさいから一時停止だ」


私はタメ口で、淡々と言った。


​私は、青島組の組員を半殺しにした、あの暴力を躊躇なく使う。優しさの探求を再開するためには、まず金が必要だ。この矛盾は、最も早く金を稼ぐことで解消する。


​ゴング!


​ジョーは迷うことなく、その巨体を活かした猛烈なラッシュで突っ込んできた。単純で殺意に満ちた攻撃は、まさにブルート(愚か者)。


​「チッ」


​私は赤く丸い目で、ジョーの攻撃を冷静に分析した。ジョーの拳は遅く、大振りだ。


​私は逆上がりで培った、無駄な力を一切使わない機動力で、すべてのパンチを紙一重で回避した。ただ回避するだけでなく、相手の力のベクトルを読んで、その動きを無効化するように体勢をずらす。


​ジョーは私に一発も当てられず、苛立ちを募らせる。


​「逃げてんじゃねぇ!男なら殴り合え!」


​「逃げてる?違うな。これは最も効率の良い回避だ。そして、私は男とかいう面倒くさいカテゴリーにも入っていない」


​私はタメ口で返しながら、瞬時に反撃のタイミングを見計らった。

​ジョーが、力を込めすぎた右のフックを空振りした、その瞬間。


​私は、彼の腹部に深く入り込んだ。私が繰り出したのは、優しさの標本を踏み潰された時に覚醒した、あの半殺しの暴力だ。


​ドゴォッ!!


​黒いスーツに覆われた体から、銀色の腹筋が震えるほどの、純粋な破壊力がジョーの腹に叩き込まれた。それは、彼を倒すためだけに最適化された、面倒くささから生まれた一撃だ。


​ジョーの巨体が、まるで内部から爆発したかのように飛び上がった。彼は意識を失い、リングのマットに血を吐きながら倒れ伏した。

​レフェリーがカウントを数え始める。


​「テン!」


​ノックアウト! 試合開始からわずか1分での圧勝だった。


​リングは静まり返り、観客は息を呑んだ。派手なスーツの無職が、殺意の用心棒を一撃で沈めたのだ。私の勝利に賭けていた観客は狂喜し、ジョーに賭けていた裏社会の連中は顔を青くした。


​私は、倒れているジョーを一瞥し、そして観客に向けてタバコの煙を吐き出した。


​「ちぇ。面倒くさくなくてよかった。次の試合は、もっと早く終わらせたいな」


​私はタメ口でそう呟き、リングを降りた。私の優しさ探求は、効率的な暴力という、最も矛盾した道を選んだのだった。


​アホライダーの初戦は、容赦なしの半殺しKOで鮮烈な勝利を飾ったぞ。彼の「半殺しの暴力」は、トーナメントで大きな注目を集めることになる。

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