第17話 VHF
第十七話:格闘技会場での「面倒」な初対面
私は「ヴァルハラ・ファイト・トーナメント(VFT)」の会場へと向かった。
雑居ビルの地下にある、薄暗く、汗と血の臭いが混ざったような場所だ。金のためとはいえ、優しさの探求とはかけ離れた、最も面倒くさい力の競い合いの場だ。
「ちぇ。面倒くさい」
私は赤い目で周囲を見渡す。黒いスーツに銀色の筋肉、銀色の顔にニッコリ笑顔のマスクという私の姿は、筋骨隆々の格闘家たちの中でも、やはり異様だった。
受付で、私は参加登録用紙に必要事項を記入した。もちろん、職業欄は「無職」だ。
「おい、アンタ。この格好で登録するのか?」
受付の男が、私の銀色の顔を見て、怪訝な顔で尋ねた。
「そうだが?何か問題でもあるか?」
「いや、ルール上は問題ないが……。アンタ、ファイトネームは?」
「ファイトネーム?ああ、アホライダーだ。無職だよ」
受付の男は顔を引き攣らせたが、賞金目当てのイカれた参加者は珍しくないのだろう、すぐに手続きを済ませた。
登録後、私は控室へと案内された。そこには、トーナメントに参加する猛者たちが集まっていた。
彼らは皆、闘志をむき出しにしており、私のような無気力な人間とは対極にいる。
私が隅のベンチに腰を下ろし、マスクの隙間からタバコを咥えた瞬間、一人の大柄な格闘家が私の前に立ちはだかった。
彼は全身にタトゥーを入れ、私よりも遥かに殺気に満ちた目をしていた。
「おい、テメェ!」
男は怒鳴った。
「そのふざけた格好はなんだ!ここはリングだぞ。ピエロの芸を見せに来たのか!」
「ああ?アンタには関係ないだろ。私は金が欲しくて来ただけだ。優しさの探求に忙しいんでな、あんまり私に絡むなよ。面倒くさい」
私はタメ口で、煙を吐き出した。
「優しさだぁ?このリングに必要なのは優しさじゃねえ!力と殺意だ!」
男は私の銀色の腹筋を指差した。
「そのチャチなコスチュームを脱げ!俺の力で、その面ごとへし折ってやる!」
私は赤く丸い目で、その男を見上げた。
「力?殺意?そんなものは、全部面倒くさいノイズだ」
私はタバコを灰皿に押し付け、立ち上がった。
「言っておくが、私は誰も傷つけないのが基本ルールだ。だが、以前、私の大事な優しさの標本を踏み潰された時に、そのルールを破って、半殺しにしてしまった。アンタがこれ以上、私の旅の邪魔をするなら、お前も半殺しにされることになるぞ」
私の放つ無気力ながらも、底知れない暴力の気配に、男は一瞬ひるんだ。しかし、すぐに怒りが勝った。
「ふざけやがって!今すぐぶち殺してやる!」
男が拳を振り上げた、その時。
控室のドアが開き、トーナメントの主催者らしき男が入ってきた。彼は場慣れした様子で、二人の間に割って入った。
「そこまでだ!アホライダー、その男は今日の対戦相手じゃない。闘いはリングでやれ!」
主催者は私を睨みつけた後、大柄な格闘家に警告した。場は収まったが、私は既にこのトーナメントが、自分の意志とは無関係に、多くの面倒事を引き起こす場所だと確信した。
「ちぇ。やはり、金稼ぎも面倒くさいな」
私はタメ口で再びベンチに腰を下ろし、マスクの隙間から次のタバコを咥えるのだった。
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