第6話 裏の対価



​偽善の募金詐欺師を警察に突き出した後、アホライダーは特に達成感もなく、相変わらずニッコリ笑顔のマスクで錆びた自転車を漕いでいた。


​「優しさの定義? 偽善じゃないこと、ってだけか。まあ、前進はしてるな」


彼はタメ口で独り言を言った。


​日が傾きかけた頃、彼は寂れた港町の倉庫街に迷い込んだ。そこでタバコ休憩を取ろうと、自転車を壁に立てかけた。


​その瞬間、強い怒鳴り声が響いた。


​「てめえゴラァ!うちの人間をサツに引き渡したらしいなぁ!」


​倉庫の陰から、黒いスーツを着た数人の男たちが現れた。彼らは体つきが良く、目つきが鋭い。いわゆる、ヤクザというやつだ。


​「おい、お前ら。なんの用だ?」


アホライダーは面倒くさそうにタメ口で尋ねた。マスクはニッコリと笑っている。


​リーダー格らしき男が、アホライダーの派手な銀色マッチョスーツを見て、鼻で笑った。


​「そのふざけた格好でとぼけんな!あの募金野郎は、俺たちのもとでシノギをやってたんだ!それを潰してくれた代償を払ってもらうぞ!」


​「シノギ? 知らねえな」


アホライダーはタバコを咥えながら言った。


「俺はただ、面倒くさい嘘を排除しただけだ。優しさとか、アンタらのシノギとか、どうでもいい」


​「どうでもいいだと? ヒーロー気取りが!この裏社会で、優しさなんて言葉は、弱者を食い物にするための取引の餌でしかねえんだよ!」


​ヤクザの男はそう言うと、持っていた金属バットを振り上げた。


​アホライダーは身構えることなく、タバコの煙をゆっくりと吐き出した。


​(優しさ、取引の餌? 面倒くさいな。殴り合いなんて、もっと面倒くさい)


​彼の哲学が、動かないことを選ばせようとする。しかし、この場を暴力で終わらせることは、後のもっと長い面倒事を招くかもしれない。


​「おい、待て。殴る前に聞け」


アホライダーは冷静なタメ口で制した。


​「俺はアンタらが言う優しさが何かわからない。だが、俺の特技は逆上がりだ。アンタらの喧嘩なんて、俺にとってはフォークとナイフの作法と同じくらいどうでもいい面倒な行為だ。さっさと終わらせたい」


​ヤクザたちは彼の言葉を理解できず、さらに激昂した。


​「ふざけやがって!てめえの逆上がりとやらで、どうやってこれを避けられるか見せてみろ!」


​金属バットが振り下ろされる。


​アホライダーは、その一瞬、地面を強く蹴った。彼は特技の逆上がりを応用し、スーツ姿のまま、近くのトラックの側壁を垂直に駆け上がり、そのまま屋根の上に飛び乗った。


​銀色のマッチョスーツが、慣れた動きで静かに屋根の上に着地した。


​「どうだ? 逆上がりは完璧だろ」


アホライダーはタメ口で、屋根の上から見下ろした。


「これでアンタらの攻撃は回避できた。これで俺の勝ちでいいか? さっさと帰って、俺にこれ以上面倒事を持ち込むな」


​ヤクザたちは唖然とした。あの派手な格好で、常人離れした身体能力。


​「てめえ、何者だ!?」


​「アホライダー。無職だよ」


​ヤクザのリーダーは、すぐに彼の行動を「強さ」だと判断した。この男に手を出せば、もっと面倒なことになる。


​「チッ!覚えとけよ、裏社会のルールを破った代償は、これからじっくり払わせてもらうからな」


​そう言い残し、ヤクザたちは撤退していった。


​アホライダーは再び溜息をつき、タバコの火を消した。


​「優しさの定義を見つけるための旅なのに、なぜか裏社会の**『面倒くさい対価』**を背負い込むことになったぞ……」


​彼の優しさ探求は、裏社会という、優しさが最も歪められた場所へと突入するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る