君を抱いたあの日から

snowdrop

未知

 生まれて半日の姪を抱かせてもらったとき、緊張で体がこわばったのを覚えている。小さいし軽いし、赤ん坊を子猿のようだと形容するのは、あながち間違いではないのだなと冷静になろうとすればするほど、自身の心に開いている巨大な穴と対峙しなければならなくなった。体の怯えから落としてしまわないように見つめれば見つめるほど、空虚なる不安が込み上がり、どうしようもなくなる。

 自分が子供だったことを覚えていない。

 誰だって生まれた時の記憶は持ち合わせていないもの。三歳までの記憶は成長とともに消える。年を取れば経年劣化のごとくど忘れしていく。覚えていると言い張るのは聞きかじった周囲の話を自身の記憶だと錯覚しているに過ぎない。それでも稀に忘れていない人もいるかもしれないが、いいたいのはそれらとは異なる。わたしは事故により忘れたのだ。

 幼い子供だった時間が皆無なので、どんな子供を前にしても、どう接していいかわからず動けなくなってしまう。あの生き物はなんだろう。無秩序かつ非生産的で、わめき泣きつき、貪るように求め、ねだってくる。ときより愛くるしく笑んで見せ、どこか遠くを訝しげに見つめる様は猫を彷彿とさせる。ときどきすり寄っては撫でさせてくれるところも似ている。

 大きくなると言葉が通じ、貪欲に手を伸ばし、自分の足で動き回っていくだろう。わたしにそんな頃があっただろうか。微塵も覚えがない。思い出せる過去は白い病室のベッドに横になり、窓に見える空をぼんやり眺めるだけが唯一の慰みだった日々しかない。そのくせ大人になりきれず幼いまま、見てくれだけが老いていく。心はとどまることを願ってやまない。そう思うのは、わたしだけだろうか。

 そんな姪も、今や高校生。スポーツに明け暮れている。

 いやはや、月日の立つのは早いものである。

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君を抱いたあの日から snowdrop @kasumin

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