配信者はつらいよ~お前らすまん。明日からしばらくメンヘラ拗らせたネットストーカー幽霊と一緒に月へ行ってくるわ~
リフ@『 』と呼ばれた少年第二章完結!
何でここに?
ロケットが宇宙空間を進んでいた。
たなびく軌跡の長さが月への到着時間を教えてくれる。
「ふぅ、やっと半分か」
そう言ってシートの背もたれに頭を乗せるのは若い男だ。
彼は視界の端で過ぎ去る星々を眺めながら、乗務員から提供された飲み物を啜る。
「宇宙で紅茶とは乙なもんだね」
個室で一人呟きつつ温かくなった息を吐き出す。
未知の経験というものは年を取るごとに少なくなっていく。
まだ若い彼の行く先には無限に広がる未知が待っているだろう。
「ん?」
それは彼が再び窓の外を見た時だった。
透過性の高い複層ガラスに室内の光景が反射していたのだが、背後で何かが動いた気がしたのだ。
「……おい」
「ジャーン! 宇宙幽霊ダ・ゾ☆」
彼の背後からニュッと顔を出してきたのは若い女だ。
幽霊だと言う割には姿がはっきりとしている。
しかし、彼女の身体は腰から下が切り取られたかのように無かった。
「宇宙は余計だろ」
「い、いいじゃないかちょっとくらい盛っても」
鼻下を人差し指で擦りつつ視線を彷徨わせる。
「自分で言っておいて照れるんじゃない」
「照れてない!」
図星だったのか耳まで赤く染まってしまう。
「で、何でここにいるんだ」
「い、いやぁ……それは、ね?」
赤みが引いていく代わりにバツが悪そうな顔になる。
「あー、大体分かったからもういいぞ」
「さ、さすが私の
「何が『私の』だ! 誤解を受ける表現は止めろっ。それに
「そう言いつつも聖人は喜んでいるのであった」
「勝手にナレーション付けんじゃねぇ!」
ピピーッ!!!
そうやって騒いでいると聖人の手首辺りから音が鳴る。
目を見開き見つめ合う二人、視線が同時に音の発生源へと向かう。
そこには腕時計型のバイタル監視装置があった。
画面が赤く点滅している。
「あ、マズ――」
それを見た聖人が何かを言いかけた直後、個室の扉が横にスライドし慌てた様子の乗務員が中に飛び込んでくる。
「大丈夫ですか!? お客様の心拍数が異常値を示しておりましてっ」
「だ、大丈夫です」
「もし気分が優れないようでしたら医療ポッドへ――」
ロケットへ乗り込む際に乗客へ貸与されるこれは、身体の異常を速やかに検知して乗務員へ知らせる装置だ。
渡された時の説明によれば、持病や環境の変化等様々な要因によって航行中に体調を崩す人間がいるらしい。
「ほら、もう落ち着きましたから」
聖人は腕を差し出し、赤から緑へと戻った画面を見せる。
「確かに戻ってはいますね……」
改めて持病も何も無い事を伝え、どうにか医療ポッド行きは免れた。
「何かありましたらすぐにこのボタンを押して下さいね」
それでも心配そうに乗務員は言い残すとチラチラと聖人の方を振り返りつつ部屋を出て行く。
「ふぅ」
「ふぅ」
扉が閉まると、聖人と月夜は同時に額の汗を拭った。
「って月夜は汗かかないだろ」
「確かに。でも心は汗をかくかも」
「……想像したらちょっと気持ち悪いな」
「一体何を想像したんだ。それに貴重な乙女の汗だぞ。存分にありがたがれよ」
「ただの汗だろ」
言い合ってはいるが、漂う空気は緩い。
案外二人の相性は良いのかもしれない。
「ふぅ、何でこうなったんだろうな」
「何だ、私がここにいる理由か?」
「まぁ間違いではない」
聖人はシートに深く体重を預けながら、初めて彼女と出会った時の事を思い出した。
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