第2話 火は人類最大の発明であり、そして――

 君の名前は、なんて言うのかな?

 男の子?それとも女の子?

 年齢は?どこに住んでいるの?

 

 君が、何者かは僕にはわからないけれど、きっと一つの物語を綴ってきて、そしてそれがこれからも続いていくんだろうね。


 これは、僕の人生を綴った物語。


 僕の人生は暗闇から始まった。

 けれど、素晴らしい5人の仲間に巡り会えて...けれど、失って......

 子供の頃の人生は、今思い出しても暗い部分が目立つ。

 子供心に、何度なんたびも世界に絶望した。

 それでも。

 今こうやって、人生の最後にこれまで歩んできた道を見返したとき、僕はこの人生は間違ってなかったと思える。

 それはきっと、僕が人に恵まれたからで。

 僕はそれを広げようとした。

 たぶん、至らないところはあったけれど。もっとできるところはあったかもしれないけれど。

 僕の進んできた道は、きっと間違ってなかったのだろう。僕が最後に見るこの景色は、きっとそれを教えてくれている。


 この物語は僕の一生。そして、これからのあなたの人生へ手向けるエール。

 さあ、始めよう。

 

 ああ、そうだ。

 始める前に、一つだけ訂正させてくれ。

 僕の人生の始まりは、きっと―――。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【1960年、アメリカのとある研究所内にて】

 


「b-02、輸送の時間だ! 出ろ!」


 真っ白い部屋の壁から、そう大きな声が聞こえてきた。ディーンはベッドの上で体を起こしながら、腕を伸ばしてストレッチをする。


「今行きまーす」


 ディーンはそう言うと、ベッドから降りて部屋のドアへと向かった。


「早くしろ! b-02。今日は我々にとってとても重要な日なのだ! 遅れることは絶対に許さん!」


 ドアを開けると、そこには白衣を着てしかめっ面をした男が立っていた。


「b-02、今日がお前の輸送日だ。今日、お前はソ連の研究所へと引き渡される。くれぐれも問題を起こすなよ」


 男の声を聞き流しながら、ディーンは渡された手枷を手首につける。

 男は、ディーンが手枷をつけ終わったことを確認すると、その鎖の先を自分の腕につけ、廊下を歩き出した。

 半ば引きずられるように歩きながら、ディーンは考える。


(ついに今日が来た……今日、この輸送の日が唯一のチャンスだ……絶対に逃すものか)


 ここはアメリカ軍が運用する魔法研究所。今からおよそ十五年前、突如として子どもたちに発症した魔法を研究するための機関だ。


「しかし、ソ連側も変わっている。わざわざ一番の危険分子のデビル《魔法持ち》を希望するなんてな」


 人類は夢の力を手に入れた。しかし、その力を手にした子どもたちが、歓迎されることはなかった。子どもたちの約1%に発症したとされる魔法を、大人たちは恐れてしまったのだ。世界は混乱の渦に飲まれ、ウィッチ・ハンターと呼ばれる魔法狩りの組織を生み出した。魔法を持つ子どもたちは「デビル」と呼ばれるようになり、彼らには何をしてもいいという風潮が広まった。


「今日起きた問題は国際問題に発展しかねない。くれぐれも絶対に問題を起こすんじゃないぞ」


 表向きでは、魔法は忌避すべきものとされ、その存在について話すことすら禁忌とされていた。しかし、国として魔法を調べないわけにもいかず、アメリカは極秘に魔法研究機関を創り出した。

 やがてその研究結果は、国すらも動かすものとなり、今回のように取引の材料とされることも増えてきた。


 魔法が地球に現れてから十五年。

 こうして人類は、魔法に適応しようとしていた――





「お前はここにおいていく。約1時間後、ソ連の局の連中が迎えに来るはずだ」


 そう言うと、研究員たちは檻に入ったディーンを冬の森において去っていった。あとに残されたディーンは、周りに誰もいなくなったことを確認すると、


ガキンッ


「あいつら、本当にいい加減だな。子供一人、ちゃんと手枷ぐらいつけとけよ」


 あらかじめ小石を詰めて外れやすくしておいたとはいえ、こんな簡単に外れていては手枷の意味があるのか心配になるディーンだった。


「てか、こんな格好でこんな場所に放置すんじゃねー!凍え死ぬじゃねぇか!」


 ディーンは、自分の着ている薄い白いシャツとズボンをつまみながらそう叫ぶ。確かに、極寒の地で着るような服ではない。


「俺が魔法使えなかったら野垂れ死にしてたぞ...それこそ国際問題になるじゃねぇか」


 ディーンはそう言いながら、右手に軽く魔力を込める。すると、手のひらから小さな赤い光の玉がでた。

 ディーンはその玉を地面に投げ捨てた。すると、その地面に火が生まれたと思えば、その火は地面を駆け、周囲にあった一本の木へと燃え移った。

 

「ちぇっ、やっぱこんだけ寒いとあんまり燃えないな...」

 

 ディーンは燃える木の火にあたりながらそう言った、周囲の気温は上がり、凍死するほどの寒さではなくなった。


「理論上うまくいくとは思っていたけれど...こんな上手くいくと拍子抜けするな」


 ディーンは研究所内で白衣の男たちが話していた話の内容を思い出す。確か、風の魔法2つをこすり合わせて、熱を生み出す魔法だっただろうか。応用すれば火がだせると思っていたのだが、その予想はどうやら的中したようだった。


「あったかー、火って最高だわ...」


 ディーンは燃える気に手をかざしながら、火の温かさに感嘆の声を上げる。 木はパチパチと音を立てながら燃え、周囲の雪はオレンジ色の灯に染まった。

 火の温かさにはしゃぐディーン。しかし、ディーンは火に気を取られるがあまり、大切なことを忘れていた。


「何だ、これは」


 ディーンは、その一言で現実に引き戻された。


 


 

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