魔法使い黎明期 ―魔法を造った少年の物語―

HAL

第1話 プロローグ

1955年。アメリカ、サンフランシスコのスラム街にて



 鉄の匂いがする。鼻につくそれは、いつまで経っても消えてなくならない。


 一歩足を踏み出してみると、水たまりに足が触れ、ポチャンと音がした。


「うっ...」


 目に映ったものに、思わず吐きそうになる。ぐちゃぐちゃになったそれらは、かつての人間としての原型をとどめていない。


「いたぞ!賞金の懸かっていたデビル魔法持ちの子供だ!」


 遠くから声が聞こえる。逃げなければいけないのに、体が言うことを聞かない。


 どんどん近づいてくる足音を聞きながら、ぐちゃぐちゃの肉塊の前に膝をつく。そして、あいつらの着ていた服からボタンを、1つ、2つ、3つ、4つ取った。


「捕まえろ!」

「あいつを逃がすな!デビルは不幸しか持ってこない!」


 怒号の声は、もうすぐそこまで迫ってきていた。自分はこのあとどうなるのだろう。そう考えようとするが、結局どうでもよくなって、思考をやめる。


 右腕に強い圧迫感。気がつけば、白装束の男たちに腕を掴まれていた。


「立て!このデビルが!」


 耳元で叫ばれているのに、どこか遠くから聞こえる。


「まっ...てろよ...お前ら」


 小さく呟いたその声は、誰にも聞かれることなく、夜の闇に消えていった。

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