武装メイドとチャラい御曹司

藤泉都理

武装メイドとチャラい御曹司




 矢絣柄で紫式部色の着物と漆黒の袴の上にフリフリの純白のエプロンを、頭の上にはフリフリの純白のカチューシャを身に着け、漆黒の長い髪の毛をなびかせる長身の女性メイド、萌音もねは思った。

 早く暗殺許可が下りないかと切に。


「お~い。萌音ちゃん。早くおいでよ。俺のメイドでしょ」

「はい。ご主人様」


 萌音自身が主人として仕える御曹司で見た目も外見もチャラい青年、財閥の親が生み出した莫大な金を使い尽くす事が俺の生きる使命だと言って憚らず、学生の身でありながら学業に向かい合わず朝な夜なキャバクラへと繰り出し湯水のように金を使う魁斗かいとの暗殺許可が早く下りないかと切に。


(暗殺許可が下りるまではわたくしがこのチャラ男を護衛しなければならないのですよ日常の世話をしなければならないのですよクソ上司め何が一週間以内に暗殺許可が下りるよですかもう一年も経ったではないですかこの一年間わたくしが創り出した改造銃を何度このチャラ男の眉間に押し当てて引き金を引いて特殊な弾を射撃。血管内に百もの小型爆弾を行き渡らせてのち身体の内部から爆発させようとした事か)


「はあ」


 萌音は魁斗の前へと静かに歩み出て、前から歩いてくる学生、に扮した三人の誘拐者の防弾チョッキを兼ねた学生服の襟元を改造ナイフで素早く斬っては露わになった素肌に改造スタンガンを押し当てて、丸三日間は身動きできない電流を浴びせては改造ロープでぐるぐる巻きにし、近くの交番の出入り口まで一蹴で飛ばし、警察官へと誘拐者として引き取ってもらった。

 萌音は魁斗のメイドとして顔が広く知られており、警察官は心得たとばかりに簡単な調書を取ってのち、すぐに萌音を感謝の言葉と共に送り出したのであった。


「さっすがあ、俺の萌音ちゃん。仕事ができる~~~」

「お褒めの言葉、痛み入ります」

「もおう。萌音ちゃん。固い。固すぎる。もっと笑ってよ。せっかくの美人さんなのに。まあ。笑っていなくても、俺をゴミ溜めを見るような目で見ても、美人さんには変わりないけどね。うん。俺は幸せ者だ。こんなクズ野郎がよくもまあ、君のような美人に護ってもらえるよ。うんうん」

「クズ野郎と自認しているのであれば言動を改めたらいかがですか?」

「え~~~。やだあ。俺。クズ野郎として生きるって決めたから。親の金で女の子にちやほやしてもらう人生を生きるって決めてるから」

「では、殺される覚悟もおありですよね。魁斗様が湯水のように使っているお金でどれほどの方を救えるのか分かっていらっしゃいますよね」

「うん。分かっているねえ。言ったでしょ。クズ野郎だって。知っているよ。俺がどっかの社会貢献団体に寄付すれば、救われる人間は多い。かもしれない。って。でも、どっかで金は抜き取られて必要な人間の元には雀の涙ほどの金しか届かないかもしれないって。うん。そうだねえ。雀の涙ほどの金でもないよりはマシだって。でも、必要な人間に必要な分の金が届かないくらいなら、俺は俺の手で好きな女の子に好きな分だけ金をあげたい。クズ野郎の俺をチヤホヤしてくれる好きな女の子にね。好きなだけ金をあげたい。誰にも取り上げられる事のない金を。自由に使える金を。その後、女の子が破滅したってどうでもいいよ。だって、チヤホヤしてくれる女の子は山ほど居るわけだし。金がある限り、ね」

「ええ。分かっていますよ。魁斗様が変わるはずがないです。変わるはずがないので、わたくしが傍に居るのです。魁斗様の命をわたくしの手で終わらせるために」

「うん。ほんと。俺は幸せ者だ。クソ野郎に命を奪われるより、美人の萌音ちゃんに奪われる方が一億倍マシだし」

「勘違いなさらないでください。魁斗様。わたくしは任務のためにここに立っているのです。任務から外されたら何の未練もなくここから立ち去ります。ええ。そうすれば、魁斗様の忌み嫌うクソ野郎に命を奪われる事でしょう」

「げえ。最悪。萌音ちゃん。任務から外されそうになったら駄々を捏ねて、俺の傍に居られるようにしてね」

「いえ。これ幸いと立ち去ります。わたくしは一刻も早く魁斗様の傍から離れたのですよ」

「俺の魅力に惹かれて離れ難くなるのが怖いからっしょ?」

「寝言は寝て言ってください」

「一年間も傍に居てくれたじゃん」

「ええ。そろそろ我慢の限界です。組織を裏切ってでも魁斗様を殺してしまいますよ」

「組織を裏切ってまで俺を殺したいって熱烈な告白じゃん。ふぅう~~~。俺って本当に幸せ者~~~」

「………キャバクラに行かれるのでしょう。早く歩みを再開してください。魁斗様」

「ああそうだ。俺の金を待っている女の子たちに早く会ってあげないとね~~~」


 萌音を素通りしてはスキップをしてキャバクラへと向かう魁斗の後頭部に、改造銃の銃口を定めた萌音は、バンっと口にしたのであった。




(………生理的に忌み嫌っていますが。ええ。一刻も早くあなたの傍から離れたいですが。殺されるほどのクソ野郎とも思っていません。ただ、殺されるに値するクソ野郎は他にも山ほど居ます。あなたにばかり構っている時間はないのですよ。ですから早く、)




 暗殺許可を下ろしてください。











(2025.12.18)



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武装メイドとチャラい御曹司 藤泉都理 @fujitori

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