第21話
会談・午前の部の質疑応答
総理が一度、会議室を見渡した。
「では質疑に入ります。質問のある者は簡潔に」
最初に手を挙げたのは内閣府危機管理監だった。
ダンジョンの危険性について
「藤堂さん。ダンジョン内の魔物は外部に出る可能性はありますか?」
「ありません」
即答だった。
「ダンジョンの外に魔物が出た例は一度も確認されていません」
「入口付近で魔物が湧くことも?」
「ありません。入口から0階層までは完全な安全地帯です」
自衛隊統合幕僚長が頷く。
「外部への直接的脅威は現時点では確認されていない、と?」
「はい」
次に発言したのは警察庁長官。
「一般人が藤堂さんと同じようにダンジョンに入った場合、同様にステータスは付与されますか?」
「私しかダンジョンに入ってないので分かりませんが、0階層に入ったらダンジョンのシステムらしきものから、脳内にメッセージがメッセージが送られてきます。そして得たステータスはダンジョンのみ有効でダンジョン外では無効化されます。」
現代社会の能力差がダンジョン内では意味をなさない可能性がある?
「その認識で問題ありません」
掲示板のような場なら炎上必至の発言だが、ここではただ記録されるだけだった。
防衛大臣が低い声で問う。
「死亡した場合は?」
会議室が静まり返る。
遥斗は一拍置いてから答えた。
「死亡します」
「現実世界と同様、蘇生はありません」
「……復活系の魔法やアイテムは?」
「少なくとも私が確認した範囲では存在しません。エリクサーでも蘇生までは無理です。蘇生魔法が使えるジョブ、またはもっと深い階層に行けば蘇生薬があるかも知れません」
研究機関の代表が小さく息を呑んだ。
文部科学大臣が質問する。
「ステータス画面は外部から観測できますか?」
「できません」
「本人以外には一切見えません」
「映像にも映らない?」
「はい。動画に映っているのは私が口頭で説明しているだけです」
官房長官が頷く。
「つまり 数値の客観的検証が難しいと」
「その通りです」
研究機関の物理学者が前に出る。
「ダンジョンの広さはどの程度ですか?」
「正確な測定はできていませんが、おおよそ東京都の区一つ分だと思われます」
「地下構造というより別空間に近い印象があります」
研究員たちが一斉にざわついた。
経済産業大臣が口を開く。
「0階層での建設は本当に可能だと?」
「間違いなく可能です」
「地面は安定しており資材を持ち込めば建築できるでしょう」
「電力、水道は?」
「ダンジョンには存在しません。ただそれらを補う魔道具はあります」
「持ち込んだ設備は問題なく使えます」
会議室の一角で誰かが小さく「都市が作れるな……」と呟いた。
厚労大臣が慎重に尋ねる。
「なぜ装備や魔導具は効果を失いポーションや魔石は有効なのか」
「理由は不明です。ダンジョンの“仕様”としか言えません」
「恣意的に決められている可能性は?」
「否定できません」
この一言に政府側は静かに緊張を高めた。
最後に総理が口を開いた。
「藤堂さん」
「なぜ、ここまで単独で探索できたのですか」
全員の視線が集まる。
遥斗は正直に答えた。
「最初は好奇心です」
「次に達成感と楽しさがありました」
「気付けば深入りしていました」
「特別な理由はありません」
沈黙。
だがその沈黙こそが“異常性”を物語っていた。
午前の部・締め
総理は深く頷いた。
「理解しました」
「午前の部はこれで終了します」
「午後は持参されたアイテムの確認と、今後の取り扱いについて協議します」
遥斗は立ち上がり一礼する。
「よろしくお願いします」
会議室の扉が閉じられる。
その場に残った者全員が同じ確信を抱いていた。
このダンジョンは日本だけの問題では終わらない。
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