第20話
内閣府庁舎。
厳重なセキュリティを幾重にも通過し、藤堂遥斗は重厚な扉の前に立たされていた。
静かに開かれる。
中は想像していたよりも遥かに広い会議室だった。
楕円形の長机。
その周囲に座るのは日本の中枢そのもの。
出席者
内閣総理大臣
内閣官房長官
外務大臣
防衛大臣
文部科学大臣
経済産業大臣
厚生労働大臣
総務大臣
警察庁長官
自衛隊統合幕僚長
陸・海・空 各幕僚監部代表
国立研究機関(医療、科学、物理・材料・生物、食料)主任研究員
内閣府危機管理監
内閣官房副長官補(記録担当)
その他多数
――まさに、国家の意思決定層。
遥斗は深く一礼した。
「藤堂遥斗です。本日はお時間を頂きありがとうございます」
総理が静かに頷く。
「こちらこそ。では午前の部を始めましょう」
会談・午前の部「ダンジョンの説明」
遥斗は用意してきた話を一切脚色せず淡々と語り始めた。
「まずダンジョン発見の経緯から説明します」
「ロト7で高額当選しました。当選金で都内を離れ山林物件を購入しました」
会議室がほんの一瞬だけざわつく。
「私の趣味は渓流釣りと山の散策です」
「その最中、山中で不自然な洞窟を発見しました」
スクリーンに洞窟の写真が映し出される。
「調査の結果、内部が通常の地形ではないと判断しました」
「それがいわゆるダンジョンでした」
遥斗は席を立ち深く頭を下げた。
「魔物討伐が予想以上に楽しく、ダンジョン探索に没頭してしまいました」
「その結果、政府への報告が遅れたこと」
「また動画投稿により世間を騒がせてしまったこと、この場を借りて深くお詫び申し上げます」
会議室は静まり返っていた。
官房長官が口を開く。
「……謝罪については受け取りました」
「ではダンジョンの構造について説明してください」
「動画でも説明しましたが口頭で改めて説明します」
遥斗はホワイトボードの前に立つ。
ダンジョン入口〜0階層
「洞窟の奥に進むと人工物のような通路があります」
「その通路を抜けると私が勝手に“0階層”と呼んでいる空間に出ます」
「0階層に入った瞬間、ダンジョンの“システム”から通知がありました」
研究員たちの視線が鋭くなる。
「内容は以下です」
ステータスの付与
レベル1からの開始
ジョブの付与
インベントリの付与
ジョブ固有スキルの取得
ランダムスキルを1つ取得
「ステータスUIは本人にしか見えない思われます」
一斉にメモを取る音、ノートPCのタイピング音が響く。
「0階層には魔物は存在しません」
「また施設を建設できそうな広大な空間が広がっており、将来的に拠点化が可能だと考えています」
自衛隊関係者がわずかに身を乗り出した。
1階層以下について
「1階層以下に出現する魔物、戦闘内容については動画をご確認ください」
「私からは以上です」
総理が頷く。
「続けてください」
ダンジョン外に出た際の制約
「重要な点です」
遥斗は声のトーンを一段落とした。
「0階層から出口へ続く通路に出た時点でステータス、スキルはすべて無効化されます」
会議室が明確にざわついた。
「つまりダンジョン外では超人的な力は使えません」
「またインベントリ内に存在していたアイテムは消滅します」
経済産業大臣が眉をひそめる。
「消滅……?」
「はい」
「インベントリから外に出していない状態の物はすべて消えます」
例外事項
「ただし例外があります」
遥斗は続ける。
「インベントリから事前に取り出した装備品、魔導具、スキルスクロールについてはダンジョン外では効果が完全に無効化されます」
研究員が思わず声を上げる。
「存在はしているが機能しない……?」
「その通りです」
「一方で」
遥斗は指を一本立てた。
「魔石」
「ポーション」
「薬草」
「これらはダンジョン外でも効果は有効です」
会議室がはっきりと騒然となった。
厚労大臣が即座に反応する。
「効果が有効……、つまり治癒や回復が現実世界でも?」
「はい。確認済みです」
午前の部・終了
総理は深く息を吐いた。
「……想像以上だ」
「次は質疑応答に入ります」
遥斗は静かに頷いた。
「承知しました」
会議室の空気はすでに一つの結論を示していた。
――これは、
個人の発見では終わらない。
国家そのものを揺るがす存在だ。
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