第22話

会談・午後の部 その1「アイテムの説明と売却」


午後一時。

会議室の中央には長机が追加され、その上に複数のダンボール箱が並べられていた。


一見すれば、どこにでもある荷物。

だが、そこに集まる視線は異様なほど重い。


藤堂遥斗は席を立ち静かに口を開いた。


「こちらがダンジョンで得たアイテムです」


「個人で数点ですが保管・運用するには危険すぎると判断し本日、政府による買い取りをお願いしたく参りました」


官房長官が小さく頷く。


「順に説明してください」


遥斗は透明な液体が入った瓶を一つ掲げた。


「エリクサーです」


会議室がわずかにざわつく。


「効果はあらゆる病気、怪我、呪いを完全に治療します」


「さらに四肢欠損を含む身体の完全再生が可能です」


厚労省、研究機関、自衛隊関係者が一斉に顔を上げた。


「年齢制限、副作用は?」


「あくまでも鑑定アイテムによるもので確認されていません」


沈黙。


次の瓶を示す。


「アムリタポーション、若返りの薬です」


一瞬、空気が凍りつく。


「使用者の年齢に応じて若返ります」


「ただし年齢が若いほど効果は薄く生涯で一度しか使用できません」


「二度目は無効です」


誰かが無意識に喉を鳴らした。


「万能薬です。あらゆる病気、怪我を治療します」


「ただしエリクサーのような四肢再生まではできません」


生活・医療補助系


遥斗は少し場違いに見える小瓶を置いた。


「育毛ポーション」


数名の視線が逸れ数名は逆に凝視した。


「塗布することで毛根を完全回復します」


「全盛期の毛髪、毛量に戻ります」


会議室の空気が微妙に揺れる。


「回復系ポーション十本」


「体力の回復が主な効果です」


「解毒系ポーション十本」


「毒状態からの回復に使用します」


「薬草、十束」


「回復ポーションの素材になります」


「高ランク魔石」


「ダンジョン由来のエネルギー体です」


「魔導具の動力源になります」


「ダンジョン外でも魔石は使えますので、エネルギー革命に繋がると思います」


科学研究の専門家が絶句する。


次に小型の装置を示す。


「水の魔道具」


「魔石を込めスイッチを押すと水が生成されます」


「水質は飲用可能なレベルです」


環境省関係者が前のめりになる。


「浄化の魔導具」


「こちらも魔石を込め、範囲を指定しスイッチを押すことで指定範囲の浄化(クリーン)を行います」


「水・空気・汚染物質が対象です。排泄物も浄化され消滅します」


遥斗は銀縁の片眼鏡を手に取った。


「アイテム鑑定のモノクル、ダンジョンアイテムの詳細鑑定ができます」


「効果、性質、希少度などが表示されます。ダンジョン内のみで使用可能です」


研究者たちの目が明らかに変わった。


「マジックバッグ」


「容量は非常に大きく内部は時間停止状態です」


「中の物は劣化しません」


誰かが、呆然と呟いた。


「……兵站が概念から変わる」


机に重厚な金属音が響く。


「インゴット類です」


「金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ」


「各三本ずつ」


金属研究の専門家が震える声で言った。


「ヒヒイロカネ?」


ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトに次ぐ新たな金属の存在に皆が騒めく。


「魔物から得た素材、革、牙、爪、ドラゴン素材、血、鱗、牙、爪です」


自衛隊関係者の表情が硬くなる。


すべての説明を終え遥斗は一礼した。


「以上のアイテムを政府に買い取っていただきたいと考えています」


「個人での管理には限界があります」


「また国家として研究・医療・防衛に役立てていただけるなら幸いです」


沈黙の後、総理がゆっくりと口を開いた。


「……藤堂さん」


「本件は国家案件です」


「すぐにとは言えませんが専門部会を設置し、正式な評価と価格を提示します」


官房長官が続ける。


「引き続き政府への協力をお願いしたい」


遥斗は静かに頷いた。


「承知しました」


会議室に残ったのは希望と恐怖が混じった沈黙だった。


これは売却交渉ではない。

人類の未来を左右する交渉の始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る