未来への翼
三木さくら
12月24日 メリー・くるしみます
「ママ、今年はホワイトクリスマスになるかな?」
娘の
ホワイトクリスマス、なんて教えたことないのに、小学校2年生のくせに何で知っているんだろう?
と思うそばから、おそらく何かのアニメか何かで、ホワイトクリスマスを見たのだろう。と、胸の内で結論付けた。
「ホワイトクリスマスかぁ。そうなったらきれいかもね」
口ではそういうが、ホワイトクリスマス。それだけは勘弁してもらいたいというのが、本音だ。
めったに雪など積もらないし、冬にスキーなどに行かない我が家は、冬場になったからと言ってスタドレスタイヤに履き替えたりしない。
だから、もしもチェーンが必要な程度に雪が積もってしまうと、チェーンのつけ外しは手間だし、チェーンが付いている車の乗り心地は最悪だし、で、ろくなことがない。
子供たちが保育園に通っているとき、大雪の日にインフルエンザを拾ってしまったことがある。ものすごい勢いで発熱する中、フラフラになりながらチェーンをつけた経験から、もう本当に「チェーンをつけなければいけない」状況がトラウマでしかない。
花音は、ひとしきりホワイトクリスマスの話をしたら納得したようで、おとなしく宿題を始めた。
平日のクリスマス。
土日のクリスマスじゃなくてよかった。土日だと、やはりクリスマスの浮かれ具合が2段3段上がる気がする。そんな浮かれ気分は、受験生には毒だ。
何もしないのは味気ない気がするから、詩音の塾弁にはフライドチキンを入れておいた。花音にはかわいそうな気がするが、今年のクリスマスはこの夕食のフライドチキンで終了。
ケーキは、食べられそうなときに
花音が就寝すると、夫の公平の車が家の車庫に駐車する音が聞こえてくる。
塾から帰る詩音を、公平が迎えに行って帰ってきたのだ。
甘やかしている、とは思う。
でも、コロナ禍を知ってしまっている身としては、感染リスクの高い電車に乗って帰って来い、はちょっと言えない。
公平がリモートワークなのをいいことに、車で塾の送迎をしてもらっている。
やがて二人がリビングに入ってきた。
「ただいま」
「お帰り、さっさとお風呂入っちゃいなさい」
大人でも帰宅したらソファに座ってだらけたくなるものだ。
なのに、わたしはその当たり前の休息を詩音に与えてあげることができない。
勉強時間と睡眠時間、両方を確保しようとすると、どうしてもそうなる。
だが。
「クリスマスぐらい、ちょっとゆっくりさせてくれてもいいじゃん」
案の定、クリスマスを盾に詩音が反旗を翻す。
「何回も言ってるわ。貴女の今年のクリスマスは、2月よ」
「なんでもかんでも2月、2月、2月!!もうたくさんだよ!」
疲れているのだろう、瞬間沸騰湯沸かし器のように詩音は爆発し、手にしたお弁当バッグを床に投げ捨てるとお風呂場へと駆け込んでいった。
投げ捨てられたお弁当バッグを拾う。
「詩音、荒れてんな」
「しょうがないわ。あと実質1か月だもの」
そして、志望校決定の面談は明日。余計にピリピリするだろう。
第一希望の学校は、決して安泰ではない。だが、受験をあきらめるほど届いていないわけでもない。微妙すぎるこのライン。
塾の講師には、この12月の伸び次第で、このまま受けるかどうか決めましょうと言われている。
小学校4年のときに出会った、熱望する志望校。
どう考えてもそんな高根の花の学校には行けないでしょう?と、半信半疑で始めた中学受験だったけど、意外にも、6年になるころには「十分狙える」ところに上がってきた。このまま行ける!と思ったけど、秋にブレーキ。
そこから焦って多少は巻き返したが、春先の勢いはない。
本人もわかっていて、12月に入ってからの詩音の機嫌は、ジェットコースターだ。
親の忍耐も試されているわ……
わたしは小さくため息をつくと、詩音のお風呂の間に、と、明日の志望校徹底面談で俎上に載せる志望校たちの整理をして、明日に備えた。
次の更新予定
未来への翼 三木さくら @39change
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