2話 何で爆破?

 扉を超えた先は、広くて白い空間。所々壁に装飾されていて、綺麗な空間だ。会場には十数人くらい、同じ受験者だろう者たちがいる。

 壁にもたれかかっている奴、筋トレしている奴、寝ている奴に⋯なんで爆発してる奴がいるんだ⋯?


「あー⋯⋯失敗だぁ」


 爆発した奴はピンピンしているみたいだ。見た目は派手だけど威力はそこまでって感じなのか⋯? 

 不思議な事に、爆破は派手だが、周りに被害どころかそれを起こした本人がまるで爆破なんて無かったように無傷である。

 こいつの能力か⋯?


「派手だねえ」

「言ってる場合っすか⋯」


 雲金さんは特に気にしていないようだ。のんびりしてるなぁ。


「愁。ここで妙な実験はよせ」

「鈴成さん~これは妙な実験じゃないですよ。これは人が持つ魔力を日常的に使用できるかの実験です。例えば妖では当たり前に使われる光源のように使ったり⋯まあ失敗しましたけど」

「お前の実験に巻き込まれるのは勘弁してくれ」

「大丈夫ですよ~そこまで僕はヤバくないので」


 ヤバい奴が自覚ないのはあるあるだよなあ⋯。

 奏鈴成さん⋯この人も雲金さんと同じ隊長格の人だ。黒い髪に眼帯を付けている。片目は過去の祓魔の際に負傷したらしい。

 それでも今も前線で祓い続ける方だ。

 愁って言う奴は分からねぇ。藤紫色の髪を纏めていて、黒い⋯眼鏡?みたいな物を付けている。実験が好きなのか?だったらここには研究科もある。わざわざ戦闘をする様な祓魔師じゃなくて、研究科に行けば好きに実験出来ると思うんだが⋯。


「お前が此処に来るのは止めはしねえ。だが後悔するんじゃねえぞ」

「後悔するかしないかは、僕が決めます。少なくとも今は、ここにいる事に後悔はありません」

「⋯そうかよ」


 愁という奴は、はっきりと自分の意思を伝えていた。

 鈴成さん⋯奏さんは愁って奴を心配しているのだろうか。

 祓魔師は悪霊を払う仕事。その危険さ故に、今まで犠牲になった祓魔師は多い。良くて身体損失、悪くて死体すら残らない。それくらい悪霊は危険だ。

 だからこそ、俺等は試験でその覚悟と祓魔師と認めてもらえる力を見せなきゃいけない。

 試験は十四時からだ。残り五分。


「楼」

「なんだい鈴成?」

「あと一人、受験者が足りない」

「ありゃ」

「試験当日にして怖気づいたか⋯」

「ん~⋯あと少し時間あるから来ないかはそれ迄良いんじゃない?」

「お前はまた悠長な事を」

「時間はまだあるもの。そっから始めればいいよ」


 今ここにいる受験者は十七人。もう一人いるのか。

 残り数分。

 試験はやっぱり模擬戦なのか?過去の試験では合格者零人だった年もあったらしいけど。

 

「初めましてぇ~君も受験生ですね」

「お前は⋯下の名前ですまないけど、確か愁とか言ってたっけか」


 声を掛けて来たのはさっき爆発してた愁とか言う奴。まさか話しかけられるとは思わなかったな。

 

「おや、僕の事をご存知です?」

「いやいや、さっき爆発してた時に聞こえただけだよ」

「なるほどさっきのですね!それでは改めて自己紹介しましょうか。僕は東雲愁です。愁で構わないですよ~これからよろしくお願いしますね」

「俺は天音晴。よろしくな愁。お互い試験頑張ろうな」

「晴君ですね。ちなみにさっきの実験はですね~!僕は人が持つ微量な魔力でも上手く使えば妖に匹敵する位の力になる!そう仮定した実験の一つなんですよ!」

「妖~?それはキツくないか?もし匹敵するとしても、それこそ祓魔師を出来るくらいの人間じゃないと無理じゃないか?」


 そう。一般的に人にも微量に魔力が流れているらしい。あくまで微量で。あってないようなものだ。

 そして一般人よりも魔力が多く妖側に近いのが祓魔師、もしくは祈祷師になれるかもしれない人間。

 これも可能性で、魔力があっても使えるとは限らない。

 

「それを実現するのが科学!僕はそれを証明して見せるのです!」


 凄ぇ自信と気合だな。


「お、遅れましたー!」


 勢いよく扉が開いたと思えば聴こえたのは女の子の声。

 亜麻色の髪で表情は長い髪で見えない。


「おお~ギリギリセーフだよ。ほら」


 雲金さんが言うと、時計は丁度カチッと十四時になった。

 それを聞いてギリギリに来た子は安堵したようだ。


「よ、良かった⋯。本当に申し訳ありません!」

「うんうん。良いんだよ~よく来たね」

「全員揃ったし時間も丁度いいな。それじゃあ、試験を始める前に言わせてもらう」


 広間の中心に奏さんが立つ。聞く姿勢は様々で皆が注目する。


「毎年試験を当日に辞退する者がいるが今年はゼロ。祓魔師は遊びじゃない。生半可な奴がなればソイツからとっとと死ぬ。お前達、祓魔師になる覚悟はあるな?逃げるなら今のうちだぞ」


 奏さんの言葉は俺等を試しているようだ。

 覚悟はある。

 この国を、島を守りたい。悪霊がいない、皆が平穏に暮らせる島にしてみせる。絶対に。

 他の奴等が祓魔師になりたい理由は知らない。

 けどここにいる全員、譲れないものがあると思う。多分。

 その意志を見せるように誰一人として此処を抜ける気は無いようだ。


「退場者無し。良いんじゃない鈴成」

「⋯そうだな。それじゃあ今から試験を開始する。てめぇ等、受かっても精々後悔するんじゃねぇぞ」


 試験が今、始まった!

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共生記録 墨月来々瀬 @sumizukikukuse

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