小説を書き始めたきっかけ

 簡潔に言おう。私が小説を書き始めたきっかけは、ただの現実逃避だ。


 この時も職場で辛いことが続いていた。いくつもの壁にぶつかっていた時期で、何もかもが上手くいっていなかった。


 どんなに頑張っても報われない。うっかりミスから始まる悪循環。


 やっと目に見える成果を出せても、評価されるのは要領もよく、アピールが上手い人ばかり。


 私は別に優秀な人間なんかじゃない。だからこそ頑張っているのに、努力すればするほど溜まっていく負の感情。


 こんな思いを抱いているのは自分だけじゃない。それは分かっていた。それでも、その現実を素直に受け止めることはできなかった。


 なんで自分はこんなにできないんだろう。なんでこんな事もこなせない?


 そうやって自分自身を責め続ける日々が続いていた。


 ただ、この感情は表に出しちゃいけないと、平気なフリを続けていた。周りはいい人ばかりだったから、その人たちに迷惑をかけちゃいけないと、ずっと飲み込んでいた。


 それでも、この思いを飲み込み続けたらいつかパンクしてしまうかもしれない。そうなる前に、何か発散できるものを探そう。そう思った。


 だから、いろいろなことをやってみた。


 職場の友人に誘われるがままにジムに通い、ゴルフを始め、FPSをしてみたり、山に登ってみたり。今までやったことのないことにも、片っ端から挑戦してみた。


 けれど、どれもしっくりこなかった。一人でも続けたいと思えるものがなかった。誰かに誘われないとやらない、そんな受動的なものは自分の趣味とは思えなかった。


 じゃあ、自分は何が好きなんだろう。何だったら続けられるんだろう。


 そう考えていたとき、ふと「小説なら書けるかもしれない」と思った。


 もともと、話を妄想するのは好きだった。友人とTRPGをしたときも、プレイヤーとして遊ぶのも楽しかったが、GKとしてシナリオを考えるのも楽しかったから。


 それに、小説なら空き時間に書けるしお金もかからない。挑戦するハードルも低い。やってみるだけなら有りなんじゃないかと思えた。


 そして、いざ書こうと情報収集も兼ねていろんなネット小説を漁った。せっかく書くなら、たくさんの人に見てもらいたいと思ったから。


 どんなものが流行りなのか、どういったものが読まれるのか、しらみつぶしに読みまくった。


 読んでいくと、ネット小説では異世界転生が人気なのが分かった。特に、悪役令嬢ものや、最強主人公のハーレム物が好まれている事を知れた。


 だから私もその系統に合わせて書こうと筆を握ったが、全然書けなかった。私にとって、流行り物のジャンルを書くのはものすごく難しかったのだ。


 悪役令嬢ものは、そもそも恋愛シミュレーションゲームをしたことがない私には妄想が難しかった。少女漫画もあまり読んだことがない。小さい頃は、コロコロコミックを読んで育った。


 周りの女の子たちが魔法少女ものでピーリカピリララしたり、二人はプリキュアしているとき、私はベイブレードでゴーシュートをしていた女である。恋愛主軸の物語はハードルが高すぎた。


 ならば最強主人公のハーレムを書こうと意気込んでみたが、最強主人公の扱いが想像以上に難しく断念した。


 どんなにピンチな状況にしても、「こいつがいれば秒で解決じゃね?」となってしまい、話が続かない。ヘイト管理も難しい。みんなどうやって書いているんだ、と頭を抱えた。


 結局、自分に合うものは何なんだろうと悩みながら筆を置き、逃げるようにスマホを弄った。


 面白いゲームでもあればとアプリを検索する。目に入ったマスターデュエルの文字。


 あぁ、懐かしいな。昔は滅茶苦茶はまってたカードゲームだ。久しぶりにやってみようかなとダウンロードする。


 そのときに思った。これじゃね? って。


 小さい頃からカードゲームは好きだった。決してガチ勢ではなく、推しカードを使いたいだけのファンデッキばかり作っていたけれど、それでもプレイするのも、アニメを見るのも好きだった。


 せっかく書くなら、流行り物よりも自分の好きなものを書いた方が楽しいんじゃないかと、カードゲーム小説の構成を考え始める。


 好きなものについて考えるのはすごく楽しかった。カードゲームに初めて触れた感覚を思い出しながら、プロットを練るのが止まらない。


 気づいたら、仕事に対する辛さや悩みも忘れて、ひたすら小説の事だけを考えていた。

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