第2話会敵

 ソウチューガ人たちの地下への出入り口はその上に堅牢な基地を設置し守りを固めている。ヒロハタとキリノたちが降下した地点にある敵基地の目の前で激しい攻防が繰り返されている。ここにたどり着くまでに50名以上いた地球の兵士は半数以下に減っていた。

「サンダ軍曹、ヤマモト、キリノはここから突破せよ。タジマ、ヒロハタ、俺と来い。二手に分かれる。」

「了解!」

 フジタ隊長はヒロハタとタジマを連れて離れていった。サンダ軍曹とキリノ、ヤマモトは移動する三人を援護射撃。他の小隊の生き残りもそれぞれに基地を取り囲みじりじりとソウチューガ兵を追い込んでいる。

「ヒロハタ死ぬんじゃないぞ!!」

 キリノの声がヒロハタの背中を追いかけてきた。サンダ軍曹たちは少しずつ前進しながら出入り口を固めている敵守備隊との距離を詰めていくがそこに無数の手榴弾が雨あられと投擲され爆発の連鎖で思うように進めない。 

「ちくしょう、しぶとい連中だな。」

「連中だって命がけなのは同じだからな。死ねばそれで終わりだ。」

 サンダ軍曹はキリノと違って冷静だ。キリノはもっと早くさくさくと勝利を収められると思っていたのがそうはいかず一進一退を繰り返すようになかなか制圧できないことに苛立ちを募らせている。

「サンダ軍曹、あんな鬼たちの肩を持つようなこと言わないでくださいよ。」

「それはすまなかった。キリノはまっすぐだな。」

「当たり前です。鬼をやっつけたくて志願したんですから。」

 キリノは濁りのないまっすぐな目をサンダ軍曹に向ける。

「勇ましいのはいいが勇み足にはなるな。殺された同胞の仇をとるんだろう。」

「はいっ。」



 時は少しさかのぼる。フジタ隊長がヒロハタとタジマを連れて側面へ回っているとき。

「囲まれたぞ、やつら四方から攻めてくる。」

「なあ、チアースのやつらどうしてソウチューガを侵略しようとするんだろうな。」

「さあな野蛮人の考えることなんざ分からないね。」

 基地を死守するソウチューガ兵たちは応戦しながらも疑問が頭をよぎる。

「ほら子供の頃見た物語に出てくる悪の侵略者ってさ、どれも科学力は優れているけど精神的には下等で野蛮だっただろ。民度が低いっていうかさ、他者を思いやることができないんだよな。」

「そうそう!しかもなぜかどの作品でもおどろおどろしい姿してんだよな。オレ、巨大ロボがやっつけてくれる話が好きだった。」

「俺も!ロボが決め手で颯爽と倒すのがかっこよくてさ、親にねだりまくっておもちゃ買ってもらったよ。面白かったなあ。」

「オレたちにもそういうロボが作れたらなあ。そしたらチアースのやつらなんか尻尾巻いて逃げ出すぜ。」

「お前ら無駄口叩いてないで向こうにいるチアースの野蛮人どもを根絶やしにしろ。残りはそう多くはない。目にものを見せてやれ。」

 守備隊司令が率先して前方から攻撃を加えてくる地球人兵士たちに手榴弾を投げる。ほかの兵たちもそれに続く。無数の手榴弾が投擲されつぎつぎと爆発する。爆音に爆音が重なり何も聞こえない。


「司令!」

 基地後方の守備に当たっていた兵士が伝令にやって来た。

「後方が突破されました。チアースの野蛮人どもが侵入してきます。」

「なんだと。全員白兵戦用意!」

「はっ!」

 伝令は敬礼すると全速力で戻っていった。

「司令、」

 そばにいたソウチューガ兵たちは全員司令の顔を覗き込むようにして次の指示を待つ。

「貴様らソウチューガの意地を見せろ。空想物語のようにいきなり侵略してきたチアースなど叩き潰せ。奴らは人間の姿を模した野蛮な悪魔だ、臆する必要はない。奴らは隙間から家に入り込んできた害虫と同じだ、全滅させよ!」

「おおうっ!!!」

 ソウチューガの意気高し。



「ヒロハタ遅れるな。離れると死ぬぞ。タジマしんがりを頼む。」

 フジタ隊長はヒロハタに檄を飛ばす。

「すみません。」

 三人は瓦礫の陰から攻撃を繰り返し基地に取りついた。そこから中へ入り込む。ヒロハタは必死についていくが、休む間もなく続く戦闘で体力が削られライフルを構えるのさえやっとの状態。うしろにいるタジマに背中を押されなんとか足を前に出す。気力で腕を上げ銃口を前へ向けて引き金を引く。戦闘スーツ越しに反動が肩に食い込む。もう肩の感覚がなくなってきた。

「このやろう、このやろう、」

 息も上がってきてしっかりと狙えない。足の力が抜けて思わず膝をついた。そのときタジマのうめき声がヘルメット越しに聞こえてきた。ヒロハタを抱え起こそうとしたタジマの脇腹にソウチューガ兵の銃剣が突き刺さっている。戦闘スーツは鎧のように頑強ではない。

「タジマさん!」

 タジマのヘルメットの中が口からあふれ出た血に染まりバイザーの視界を閉ざす。思わず目を背けたヒロハタのヘルメットにタジマの血が付いたソウチューガ兵の銃剣が当たる。刃はヘルメットの丸みに沿って滑って抜けていく。ヒロハタとソウチューガ兵はお互いにぶつかり合ってまじまじと互いの目を見てしまった。

「うわぁああ~!」

 ヒロハタは恐怖の叫び声をあげて尻もちをついた。ソウチューガ兵の憎しみに満ちた目がヒロハタの心をえぐる。

「ヒロハタ立て!」

 前方からフジタ隊長の声が響く。しかしヒロハタは初めて間近にみる敵兵に恐れをなし手が震える。相手の目をしっかりと見てしまった。心の中に恐怖が生まれた。

「ヒロハタ!」

 フジタ隊長が叱咤しながらヒロハタの目の前にいるソウチューガ兵へ向けて発砲。そのうちの数発が命中、タジマと同じようにメットの中を血に染めながらヒロハタに覆いかぶさるように崩れてきた。

「うわっ、」

 それに押し倒されるようにヒロハタは敵兵の”重さ”をその体で受け止めた。

『これが、敵・・・』

「しっかりしろヒロハタ!立てるか?」

 フジタ隊長がヒロハタの腕をつかんで持ち上げる。なんとか立ち上がったものの足が小刻みに震える。

「ガッ・・・」

 フジタ隊長がいきなり頭突きしてきた。ヘルメット越しとはいえ重い衝撃にヒロハタは呻く。

「いつまで呆けている。タジマの分も戦え、それがやつへの手向たむけになる。」



 ソウチューガの守備隊司令は兵士たちに檄を飛ばす。

「やつらと遭遇したら各個の判断で動け、ためらうな、殺せ。」

 そうして自分は兵士たちの最前面に立ち地球人兵士を待ち構える。司令らしからぬ行動をする人だ。

「いつでも来い野蛮人め。一人残らず殺してやる。」



「キリノ援護しろ。」

 サンダ軍曹はそう言うとヤマモトを連れて飛び出した。キリノの弾幕が二人を守る。出入口そばに転がる瓦礫の陰に二人が到達するとサンダはキリノに手を振る。キリノは飛び出して二人のもとへ一目散に走った。サンダとヤマモトがキリノを援護する。が、敵兵の放った銃弾が一発キリノの足に当たった。

「痛ってぇ・・・」

 キリノは右足を引きずりながら合流する。

「大丈夫か、テープは貼れるか?」

「はい、自分でできます。それよりさっさとあそこを突破しましょう。」

 キリノは穴の開いた個所に保護テープを貼る。でないと被曝する。

「その意気だ、援護しろ。」

「はっ!」

 キリノは横たわり瓦礫の端から頭とライフルだけを出して正面口を固めている敵兵に銃弾を浴びせる。サンダとヤマモトが出入口にとりついた。左右から中へ手榴弾を投げ込む。爆風が勢いよく吹き荒れる。サンダとヤマモトが中へ入った。それを見届けたキリノは足を引きずりながら追いかける。

 出入口の中から銃撃の音が響いてくる。そこまでやって来たキリノはそっと中の様子を伺う。そのヘルメットにガツンと敵兵の流れ弾が当たった。

「このやろう!」

 キリノは目を吊り上げてライフルを構え敵兵を探す。中は明かりが消され薄暗い上に手榴弾による粉塵で視界が悪い。今まで明るいところにいたからなおさら見えづらい。キリノは索敵のために左肩に取り付けてあるライトを点灯し中へ踏み込んだ。粉塵の幕の向こうで銃撃の音がいまだ鳴りやまない。

「サンダ軍曹!ヤマモトさん!」

 キリノはその向こうにいる二人に声をかけつつ歩を進める。その時キリノの腹を熱いものが貫いていった。キリノは声を発することもなくその場に崩折くずおれた。

 サンダたちが放り込んだ手榴弾で吹き飛ばされた死にぞこないのソウチューガ兵が最後の力を振り絞ってライトを明るく照らしているキリノを狙撃した。

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