欺瞞戦線~栄光の墓標
山田隆晴
第1話妄信
人は強大な力を求めてやまない。そしてそれを手に入れると使わずにはいられない。
そうやって人類はつぎつぎと新たな力を生み出してはその威力を誇示し他者を虐げてきた。
限りある地上での争いに行き詰まりを感じた人類はその魔の手を地球の外へ向けた。その執念が実を結び宇宙に自由に進出できるようになった人類はさらなる力を求めて新たな技術を開発しとうとう外宇宙にも乗り出した。そして辿り着いた星々を手当たり次第に占領したり時には破壊することで"地球"という覇者の存在を宇宙に知らしめようと躍起になった。
占領した星々に拠点となる基地を建設・設置し、そこを足掛かりにさらなる深淵へと人類は踏み込んでいきその先で彼らと出会った。
地球外生命体。
地球から遥か遠くの外宇宙で人類は初めて宇宙人に遭遇した。その未知の人類が文明と文化を栄えさせ、宇宙を見上げていたころの地球人と同程度の科学力を持つに至ったソウチューガ星。そこに行きついた地球人類は相手の戦力を確かめもせずに侵略を始めた。地球史上初の人類のいる植民惑星、宇宙人を隷属させることに人類は胸を躍らせて。
けたたましい警報がソウチューガ全土に響き渡る。
「チアース艦隊出現!全天14ヶ所!」
地球人類はソウチューガ星のあらゆる方向から一斉に攻撃を仕掛ける。
この星を発見した当初は子供の頃に見たアニメの侵略者がいつも同じ場所に攻めてくるようにピンポイントで攻撃を仕掛けていたが、ソウチューガ人によるアニメの主人公たちのような必死な抵抗に遭い、まさにアニメの悪役と同じように多くの兵と戦力を失う惨状を呈した。プライドを傷つけられ後に引けなくなった地球人類はソウチューガの戦力を分散させるために複数個所の同時攻撃に切り替えた。しかも地球人類が住まない惑星だからという理由だけで核ミサイルも雨のように降らせて惑星全土を汚染し、ソウチューガ人を地下へと追いやった。それでもソウチューガ人の抵抗は止まない。むしろ地球への憎悪を一層たぎらせる結果となった。
「敵機接近、あと300秒で敵ミサイル射程圏内に突入。」
レーダー手の報告に艦長が降下部隊を急かす。
「これ以上の滞空は危険だ、早く降下してくれ。」
ソウチューガ人を見下した地球人類は大きな過ちを犯すことになる。彼らはソウチューガ星を構成する鉱物に由来する未知の兵器を保有していた。それは地球の核爆弾にも匹敵する絶大な破壊力を持った兵器。しかも戦闘機に搭載可能なほどに小型化もできる。
地球人類が襲い来る以前ソウチューガ人たちはその兵器の威力を抑止力にかろうじて平和を維持していた。そのピンと張ったピアノ線の上を歩く綱渡りのような平和を地球人類が核ミサイルの雨でぶち壊したせいでソウチューガ人は互いに手を取り合った。強大な敵には共闘で勝利を収める。互いに覇権を争うのはそのあとでというわけだ。しかも地球の核で星全土を汚染されたソウチューガ人は自らのその兵器の使用をためらう理由がなくなった。
ソウチューガ版核兵器を搭載した無数の戦闘機が地球の宇宙戦闘艦に群がりそれをぶち込んでくる。いくら外宇宙を航行できる
だから地球軍本部は兵を直接地上に降下させる白兵戦闘に主軸を切り替えた。兵を降下させたあと
「艦長に放り出される前に上陸するぞ。全員戦闘スーツの気密を再度確認せよ。」
ソウチューガの地上を放射能で汚染した地球人類は防護服の機能を持たせた戦闘スーツなしには
「確認の終わった者から降下せよ。」
大隊長が指示を下す。準備を整えた者から
「キリノちょっと見てくれ。」
「なにやってんだそこのロックはヘルメットをかぶってからだ。でないと襟元から放射能が入り込んで窒息するぞ。」
新兵のヒロハタはこれが初陣。
「貴様ら何をもたついている!さっさと確認してクリーンルームへ行け!」
全員の様子を見ていた大隊長が怒鳴る。
「はいっ、すみません。」
「ったくしっかりしろよ。何度も訓練したろ。これだから徴集兵はって言われちまうんだぞ。」
ヒロハタの徴集と同時期に志願してここへきたキリノがヒロハタのメットをポンと叩いて喝を入れる。
「ごめん。」
除染室で二人を待ち構えていたヒロハタが所属する小隊のフジタ隊長が二人のメットに手を当ててコツンとメットをぶつけ合わせそこに自分のメットもくっつけて二人に話しかけた。
「隊長?」「な、なんでしょうか。」
「いいか二人ともソウチューガの連中はお前らが新兵だろうとお構いなしだ。死にたくなかったらためらわずに引き金を引け。奴らは人間じゃねえ、非道な下等生物だ。血を吸おうと寄ってくる蚊を叩き潰すように殺せ。」
「はいっ。奴らに殺された同胞の仇を取ってやります!」
キリノは意気込んで返事をした。
「は、はい、」
ヒロハタはフジタ隊長の顔色を窺うように返事をする。
「ヒロハタ、キリノを見習え。容赦はするな、さあ行け!」
フジタ隊長は二人をハッチの外へ見送ったあと自分も飛び出していった。
大勢の地球人兵士が
降下中は敵機の機銃掃射に加え、地上からは対空砲や対空機銃による斉射を浴びる。火をまとった銃弾が縦横無尽に幕を張り彼らの地上到達を妨げる。
「キリノ、これ本当に降りられるのか。」
ヒロハタは自由落下しながら泣きを入れてきた。
「よっぽど近づかない限り人間みたいな小さい的には当たらないよ。」
キリノはぐるぐると体をひねってまるでスカイダイビングを楽しんでいるようだ。
「だけど見ろよ、敵機に落とされてる人いるじゃんか。」
ミサイルを放ったあとの敵戦闘機が剝いた牙に命を散らす地球人兵士たちが落ちていくのが見える。
「そりゃ近くから撃たれれば当たることもあるさ。」
「キリノ!」
「ははは、大丈夫俺たち加速度がついてるんだぜしかも戦闘機より小回りが利く、しっかり逃げてりゃそうそう当てられるもんじゃないさ。射撃訓練でやっただろ。」
「そうだけど、着地の前にはパラシュートで減速するじゃん。」
キリノはすい~っとヒロハタのそばに近づいて笑った。
「お前のライフルについているそのでっかいのはなんなんだよ。」
降下兵たちは着地するところを狙われないようパラシュートが開いたらライフルに備え付けたグレネードランチャーを用いて着地点にいるソウチューガ兵を一掃することになっている。
「いざというときはそれで威嚇すりゃいい。」
「おお!」
「おお、じゃねえ。初陣でいきなり戦友を失くすなんてこと俺に経験させんなよ。」
地上との距離が詰まってくる。降下した時には砂粒以下だったソウチューガ兵の姿が次第に大きくなっていく。パラシュートが開く地点まで近づくとソウチューガ兵が地球人と同じような人型をしているのが分かった。
「あいつらがソウチューガ人?なんかすごいいかつい姿してるんだな。」
ヒロハタはのんきな感想を抱いて下から迎撃してくる敵兵を見下ろしている。
「アホか。あいつらだって俺たちと同じで防護用の戦闘スーツを着てるって聞かされてんだろ。」
「あ、ああそうだった。」
「お前そんなんであいつらと戦えるのか。あいつらはここへやって来た地球の友好使節団を何の警告もなくいきなり全滅させた鬼だぞ。」
「それは知ってる。初めての地球外人類だから友好関係を築こうとしたのに何も話を聞かずに攻撃してきたんだ。」
「せっかく地球人が仲良くしようとしたのに言葉が通じないってだけで
地上まであと300メートル。
「パラシュートが開くぞ、ランチャーの安全装置を外せ。」
「2・・1!」
パラシュートが自動で展開。大きく広がった傘にぐいい~っと体が引っ張られる。その逆Gがキツイ。ヒロハタは出撃前に食べた戦闘糧食を戻しそうになる。胃から食道へあがってくるのを必死に飲み込みながらグレネードランチャーの引き金を引いた。
4本の火柱が地上へ向かって伸びていく。数秒後広範囲で爆発が起こる。爆煙が辺りを包み視界を遮る。それが無事にここまで降下してきた兵の数だけ地上に広がる。見渡す限り爆炎と煙に包まれてソウチューガの大地が見えない。その向こうから多くの悲鳴が聞こえてきた。
「な、なんだ?!」
ヒロハタはうろたえた。人の叫び声とも獣の咆哮とも区別がつかない。ただ数えきれないほどの叫びが四方八方から響いてくる。
「ざまあみろ、ソウチューガ人め。地球人を怒らせたのが運の尽きだ。」
キリノはパラシュートを切り離すと身をかがめてそこから離れた。
「待ってくれ。」
「さっさと来いヒロハタ。生き残りに
「(フジタ)隊長は無事かな。」
「当たり前だろ。さっさと合流しようぜ。」
キリノも初陣なのに志願兵だけあってやたらと肝が据わっている。多くの叫び声を聞いてビビっているヒロハタを先導して隊長のもとへ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます