第3話 おひるねのおうさま

 昼下がりの柔らかな日差しがリビングに差し込むころ、そろそろ双子のお昼寝の時間がやってきます。


「二人とも、お昼寝の時間ですよ~」


 詩緒里さんが声をかけると、真里ちゃんはすぐに布団へ潜り込みました。


 しかし真緒ちゃんは──

 布団の上でぴょこんと立ち上がり、元気よく宣言します。


「まお、ねない!! ねたらまけ!!」


 昼寝と勝敗の関係は不明ですが、本人の中ではすでに戦いが始まっているようです。


「急に勝負って言われても……」


 真里ちゃんが困ったように言うと、真緒ちゃんは拳を握りしめ、天に掲げました。


「まりよりさきにねたら、まおのまけ!

 さいごまでおきてたほうが……おひるねのおうさま!!」


 お昼寝の王様……どちらかと言うと、お昼寝する方が王様ではないでしょうか。


「お昼寝に王様はいらないと思うけど……」


「いるの!!」


 この勢いは誰にも止められません。


「……静かに勝負してくださいね」


 詩緒里さんは、すっかり慣れた調子で苦笑しました。


 ◆


 お昼寝耐久勝負が幕を開けます。


 真緒ちゃんは布団の上で仁王立ちになり、胸を張って宣言します。


「まお、つよいから! ぜったいねない!!」


 幼いながら威圧感だけは見事なものです。


 一方の真里ちゃんは、おとなしく横になりながら目をぱちぱちさせています。


「寝たほうが気持ちいいのに……」


「まり、ねてもいいよ! まおがかつだけだから!」


 勝利宣言が早いところは、魔王時代の片鱗なのでしょうか。


 しかし──睡魔は誰に対しても平等です。


「まお……ぜんぜん……ねむく……ない……」


 言いながら、真緒ちゃんの頭はこっくりこっくり揺れ始めました。

 倒れかけてはハッと起き直す。

 その繰り返しがとても可愛らしいものです。


「真緒、眠そうだよ……」


 真里ちゃんが心配すると、真緒ちゃんはむきになって首を振りました。


「ねむくない! まおは……つよ……よわ……つよ……」


 だんだんと何を言っているか分からなくなっています。

 睡魔との戦いは、魔王を継ぐ幼子にも過酷なようです。


 ◆


 そして、ついに限界が訪れました。


「まお……まけ……ない……」


 最後の抵抗を見せる真緒ちゃん。

 しかし──


 スゥ……スゥ……


 そのまま真里ちゃんの胸へ倒れ込んでしまいました。


「わっ……真緒、寝ちゃった……」


 真緒ちゃんの寝顔はとても穏やかで、すやすやと静かな寝息が聞こえます。

 あれほど勝負に燃えていたのが嘘のようです。


 詩緒里さんがそっと覗き込み、微笑ましくつぶやきます。


「ふふ、真緒ちゃんの負けですね」


 真里ちゃんは、もたれかかり眠る真緒ちゃんを優しく撫でました。

 真緒ちゃんは眠ったまま小さく「んふ……」と笑います。

 その寝顔は天使のようでした。


「おやすみ、真緒」


 真緒ちゃんをそっと寝かせ、その隣に真里ちゃんも寝ころびました。

 二人はそのまま寄り添い、夕日のような暖かい陽だまりの中で静かに眠っていきます。


 こうして今日のお昼寝耐久勝負は、ほのぼのとした午後の空気に包まれながら、可愛く穏やかに幕を閉じました。

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