第7話

 めしまろさんは夜になると活発になる。


 深夜二時。私が論文を書いていると、めしまろさんは突然走り出す。床を蹴って、壁に向かって跳躍し、空中で体をひねり、着地する。それを繰り返す。何もないのに。何かに追いかけられているように。あるいは、何かを追いかけているように。


「何と戦ってるの」


 私は尋ねる。めしまろさんは立ち止まって、じっと虚空を見つめる。目が大きく開いている。瞳孔が広がって、琥珀色の虹彩が細い輪になっている。耳が前を向いている。ひげがぴんと張っている。


 何かが、いる。


 私には見えない。聞こえない。感じられない。でもめしまろさんには、確かに何かが見えている。


「……見えてるんだね、何か」


 めしまろさんは私を見た。一瞬だけ。それからまた、虚空に視線を戻した。


 その目は、どこか遠くを見ているようだった。私がいる場所とは違う、どこか遠く。

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