第1章:地獄の家族会議と、脳内マッピング
通されたリビングは、モデルルームのように無機質で、綺麗だった。
なのに、今の俺にとっては、完全に――処刑場だ。
革張りのL字ソファに、二人の美少女が並んでいる。
右。金髪を逆立て、獣のような眼光で俺を射抜くクラスメイト、橘 瑠奈。
左。絶対零度の静寂を纏い、俺の存在価値を査定する生徒会長、黒澤 詩織。
二人の視線のナイフが、正座する俺の喉元に突き立てられていた。
「……で?」
沈黙を切り裂いたのは、瑠奈のドスの効いた声だった。
「どういうつもり? ドッキリなら今すぐカメラの場所吐きなよ。……殺すよ?」
「ドッキリじゃない。本気だ」
「はあ!? マジで言ってんの!?」
バン! とテーブルが鳴る。瑠奈が身を乗り出した。
「アンタ馬鹿なの? 高2で結婚? 相手はウチらの母親? ……キモい。犯罪級にキモい。生理的に無理」
マシンガンのような罵倒が、俺の胃を抉る。
だが、隣の詩織先輩は、さらに冷徹だった。
「瑠奈、感情論は無意味よ。――雨宮くん。単刀直入に伺います」
彼女は眼鏡のブリッジを指先で直すと、事務的な口調で俺を断罪した。
「母を養う経済力は? まさか、母の遺産や保険金が目当てではないでしょうね? 親の
逃げ場はない。俺は事前に用意していた“事実”を並べた。
海外赴任中の両親からの送金。生活水準の維持。
だが、それらはすべて、詩織先輩の「で、あなた自身の価値は?」という問いの前では、無力な砂城だった。
「お待たせ〜! とびきりのハーブティーよ〜♪」
そこへ遥さんが、氷河期のような空気を無視して戻ってきた。
俺の隣に座る彼女の手元。市販のクッキー。そして、不自然に貼られた新しい絆創膏。
――見えた。
遥さんは今日、俺を迎える準備だけで限界だったんだ。
慣れないもてなし。焦り。指の怪我。
そのすべてが、俺の脳内の「遥」というデータベースと合致する。
俺は迷わず立ち上がった。
「遥さん、キッチン借ります。夕飯は俺が作る。あなたは座ってて」
「はあ? 何、得意の料理で点数稼ぎ? キモ……」
背後で瑠奈が吐き捨てるのを無視し、俺はキッチンへ向かう。
当然、俺がここへ足を踏み入れるのは初めてだ。
なのに、迷わない。
(塩は、コンロ右側。計量スプーンは、シンク下二段目の奥)
淀みなく手が伸び、必要な道具が揃っていく。
「……あなた、なぜそこだと分かったの?」
詩織先輩が背後に立っていた。その声には、明らかな「恐怖」が混じっている。
「そのコンソメ。母が使いにくいからって、数日前に場所を移したばかりなの。……初めて来たあなたが、なぜ?」
俺は手を止めず、正直に答えた。
「遥さんが俺の家にいた頃の、動きの癖(ログ)を解析しただけだ。手を伸ばす高さ、視線の泳ぎ方、探す順序。……全部、俺の脳内にマッピングしてある」
一瞬、キッチンに戦慄が走った。
「……キモ。やっぱコイツ、本物の変態じゃん」
瑠奈が震える声で呟くが、俺は構わない。
「今日は簡単なものにする。君たちが食べ慣れている『遥さんの味』に寄せるから」
やがて並んだのは、派手さのない、だが「馴染み深い」温かな食卓だった。
一口食べた瞬間、二人の動きが止まる。
「……なんで。なんで、ママの味なの」
瑠奈の瞳に、困惑と、認めがたい敗北感が浮かぶ。
俺が作ったのは、ただの料理じゃない。
彼女たちが「絶対に侵されない」と信じていた聖域。
すなわち“家庭の味”への侵略だ。
「……ムカつく。美味しいのが、死ぬほどムカつく」
完食。
こうして俺は、異常な観察眼という毒を、彼女たちの胃袋へ直接流し込んだのだった。
(続く)
「いろんな意味で聖次ヤバ」
と思っていただけましたら、
☆評価や作品のフォローをよろしくお願いします!
応援していただけると、作者のテンションと作品のランキングが上がります!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます