第3話続・エピローグ:『絶景、朝食、そして締切』
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「え、えぇぇーーーーっ!!?」
私の絶叫がこだまする中、ふすまがスッ……と開いた。
そこに立っていたのは、旅館の仲居さん――の後ろからひょっこりと顔を出した、見慣れたスーツ姿の女性。
「おはようございまーす、先生♡ よく眠れたみたいで何よりです!」
にっこりと満面の笑み。
私の担当編集者だ。
「な、なんで……ここが……!?」
彼女はカツカツと部屋に入ってくると、窓の外の富士山を一瞥して、パチンと手を合わせた。
「いやー、いい景色! GPSって便利ですよねえ。先生、なかなか電話に出ないから心配で心配で……**来ちゃいました、地の果てまでも!**」
「うひょー!」
思わず変な声が出る。
そうだ、この逃避行……もとい「執筆の旅」は、昨日の夜に原稿をあげる約束で強行したものだった。それを私は、富士の霊力に当てられて12時間ぶっ通しで寝倒してしまったのだ。
編集さんは、私のサイドテーブルの、一度も開いていないノートPCを指差して笑う。
**「そりゃ来ますよ! 原稿頂かないと! 私も東京帰れませんから!」**
その笑顔の奥の目は、全く笑っていない。
「さあ先生、チェックアウトは11時。あと3時間あります」
編集さんがパンパンと手を叩く。
仲居さんが運んできてくれた豪華な朝食のお膳が、ノートPCの横に並べられた。
「朝ごはんはエネルギーになりますからね! さあ、食べながら打ちましょうか! **富士山が見てますよ!**」
「お、温泉……朝風呂……」
「脱稿したら、足湯くらいは浸かれるかもしれませんね!」
カタカタカタカタ……ッ!
静寂だった部屋に、猛烈なタイピング音が響き始めた。
目の前には日本一の富士山。
横には極上の出汁巻き卵。
背後には、鬼の編集者。
私の優雅な休日は、ここからが本当の戦いだった。
***
**(真・最終ステータス)**
* **睡眠:** 十分(脳は冴え渡っている)
* **精神:** パニック状態
* **ミッション:** 3時間で原稿を仕上げ、温泉の残り湯を狙う
* **敵:** 笑顔の編集者(物理攻撃力:高)
**教訓:**
仕事から逃げても、仕事(と編集者)は新幹線に乗って追いかけてくる。
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