第2話 魔導協会
「やあ、来たね。ダンジョン帰りだと言うのに申し訳ない。さぁ、掛けて、疲れただろう。
「どうも統括」
魔導協会魔導士部門統括、
この何年かで物凄いスピードで出世し、今年ついに統括の座に就いた若き新星って触れ込みだ。
これが初対面だけど、物腰が柔らかくて人当たりが良さそうなのに、どこかこの人を敵に回してはならないと感じてしまう凄味がある。
ただならぬ者で、何者かである人って感じ。
「会うのは初めてだね。キミの資料は読ませてもらったよ、実に興味深い。前線魔導士への昇級を何度も辞退している。なにゆえかな?」
「その資料とやらに書いてあるんじゃ?」
「キミの口から聞きたい」
有無を言わさぬ目付きだ。
もちろん立場上、逆らうわけにもいかないけど。
「前線魔導士に昇格すれば、そりゃ待遇はよくなりますし、みんなから尊敬されて良い気分になれます。けど、俺にとってはそんなことはどうだっていいんです。俺にとって大切なのは、これだけ」
椅子に座る際に腰から抜いて、立て掛けていた
「これは恩人の形見なんです。葬式の時、遺族の前で誓いました。その意思を、これと一緒に受け継ぐって。だから手放したくない、って言うのが昇級を辞退してる理由です」
「なるほど」
既知の情報だ、とでも言いたげな顔をして統括は顎に手を置いた。
たぶん資料に書いてあった情報以上のものが出て来なかったからかな。
前任の統括に何度も説明したことだ、今更それ以上は出て来ない。
「つまり前線魔導士に昇級すれば、いよいよその旧型兵器である
「はい」
「では、それが解決できた場合、昇級する意思はあるのかな?」
「えぇ、まぁ。これを手放さずに済むなら昇級を拒む理由はないですけど」
「それが聞けて安心したよ。それでは」
統括はすこし椅子を引いて、机の引き出しから青い鉱石を取り出した。
机上で鈍く輝くそれはさっき話題に出た
「キミにこれを受け取ってほしい」
「話し聞いてました?」
「聞いていたとも。だから、特例として
「
「そうだ。これなら昇級を拒む理由はないだろう?」
「それはそうですけど……」
俺を特別扱いして
実際、これまではそうだった。
なにか理由があるはずだ。俺に
そんな思考が顔に出ていたのか、統括の口が開く。
「キミがその
彼の目が真っ直ぐに俺を見る。
「この話を知った時、私は感動したんだ。殉職した彼の正義感に、それを継いだキミの決意にだ。そして私に何かできることはないかと思ったんだ」
「だから、俺を特別扱いしようと?」
「褒められたことではないのだがね」
話だけ聞いていると彼がとても人情深い人のように思える。上辺だけの言葉、という風にも思えなかった。
けど、実際人情深い質なのかも知れないけど、彼の言う通りこれは統括の立場でするような、していいようなことじゃない。
それになにより仕事に私情を挟むようなタイプにも全然見えないのが大問題。
何かもっと別の理由がある気がするんだけど。
そう言えば。
「さっき前線組が帰って来ましたね」
「そうだね」
「俺の記憶が正しいなら、一週間ほど早いですよね? 帰ってくるの」
「あぁ、その通りだ」
「前線でなにかあったんですか?」
「残念ながらそれはまだ非公開なんだ」
なにかあったことは否定してないんだ。
恐らくダンジョンの最前線で何かがあって、前線組が予定よりも早く地上に戻って来た。何かの詳細は知る由もないけど深刻そうなことは伝わってくる。
前線に送る戦力が一人でも多く欲しいってことかな。なら、俺を前線魔導士に昇級させようって理由にもなる。
「ふん……わかりました。そういうことでしたら、昇級を拒否する理由はありません。受け入れます。ただ猶予はどれくらいありますか?」
「出来るだけ早くが望ましいが、まだなにか懸念が?」
「いま指導している魔導士がいます。彼女をほっぽりだして前線に行くのは」
「たしかに、それもそうだね。えーっと、いまキミが担当しているのは……如月ルリくんだね。なるほど……ふむ、資料を見る限りまだ経験が浅いのが気になるが、実力は申し分ない」
「えーっと?」
「よし。キミが推薦するなら彼女の同行を許可しよう」
「えぇ!?」
ちょっと今ので色々とわからなくなっちゃったんだけど、どういうことなのかちゃんと統括から話を聞かないと。
一般魔導士、旧型兵器で無双する ~旧型兵器使いで昇級には縁がなかったけど、新型兵器がなぜか一斉にオシャカになった件~ 黒井カラス @karasukuroi96
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