一般魔導士、旧型兵器で無双する ~旧型兵器使いで昇級には縁がなかったけど、新型兵器がなぜか一斉にオシャカになった件~
黒井カラス
第1話 魔導士
ダンジョン。
数多ある分岐路の一つ。
その行き止まり。
「
光る苔を
普通の鹿でさえ角で突かれると腹に穴が空く。モンスターともなれば貫通して串刺しになるのは避けられない。
まぁ、それもアントラーの突進を真正面から受けた時の話。
「認証コード【サラマンダー】」
対モンスター兵器、
使い手の思念によって形状を変えるプログラマブルマターウェポン。
それに手を掛け、鞘から刃を引き抜く。
火花を散らして外気に触れた刀身が赤く赤く灼熱を帯びる。
「
鉄の角が目と鼻の先にまで迫った瞬間、赤熱の一撃を振り抜いた。
「――アントラーの討伐完了っと」
足下には二本の鉄の角と、それが生えていた本体の死体が転がっている。
「どうだった? 今日の俺は」
「どうだったって……そんなにうずうずした様子でこっちを見ないでください。……凄かったですよ」
「だろ!? だろだろ!」
「やっぱり凄くなかったです」
「そんなぁ!」
「はぁ……なんで私の指導教官ってこんなに……」
「こんなに?」
「なんでもありません。回収班を呼んで先に進みましょう、シュウさん」
「ルリはいつも真面目だなぁ」
「私はシュウさんほど明るい……おちゃらけた性格ではないので」
「言い直さなくて良くない? いまの」
「あまり時間に余裕はないですよ」
さらっと無視されちゃった。
ともかくルリの言う通り資源を回収しよう。
§
カミサマを信じるか?
答えはその時々による、だ。
例えば受験の前とか、腹を下した時とか、九死に一生を得た後とか。
要はなにか大いなる存在に縋りたい時や、自分じゃどうにも出来ない状況に陥った時、思いがけない幸運を授かった時、そんな時にだけ都合良く信仰心を抱く。
一部の熱心な、何かしらの信者でもなければ大抵の日本人がそう。
ハロウィンも、クリスマスも、バレンタインも、その場のノリでなんとなく利用してるだけ。
正確な出自も、歴史的背景も、本来の意味も、関係ない。
信じたい時に信じたいものだけを信じてる。
だから、もしカミサマが本当にいるなら、そんな身勝手な人たちに怒ったんだ。
日本は、日本列島は、海から競り上がった巨大な壁に囲まれて蓋をされた。隔離された。
まるでカミサマが信じたい時に信じたいものだけ、なんて言わせないようにしたみたいに。
海外との連絡手段が物理的に遮断されたことで日本は完全に孤立した。
唯一残った希望は北海道稚内から樺太に繋がっている、とされている大規模な洞窟だけ。
それを世間は面白おかしく、こう呼んだ。
ダンジョン。
§
北海道稚内、魔導協会本部。
「あ、また価値が上がってる」
アントラーの鉄角と本体、それからダンジョンで手に入れた資源の数々。
それらを提出した後、貸与された携帯端末の画面を見てルリが呟く。
内容は仕事の評価ポイントの詳細で、目が落ちた欄にはアントラーの鉄角が。
「日本は万年鉄不足だからな。ま、鉄に限った話でもないけど」
「海外からの輸入が途絶えて、何もかもが不足してばかりですね」
「まさかモンスターまで食うようになるなんて十年前まで思いもしなかったよな」
食うに困ると、なんだって口に入れるようになる。
それが得体の知れない凶暴なバケモノでも。
なんて話していると、エントランスがにわかに騒がしくなる。
「なんの騒ぎでしょう?」
「この感じだと……たぶん、帰って来たんだろ。前線組が」
あぁ、という顔をしたルリの視線が騒ぎのほうに向く。
丁度エントランスの自動ドアが開いて、疲れた様子の魔導士たちがご入場。
戦闘用に仕立てられた戦闘服がものの見事にボロボロになって、前線の過酷さがよくわかる。あれ、普通の魔導士が使う分には年単位で持つんだけど、前線組に掛かれば消耗品だ。
「でも可笑しいな。前線組が帰ってくるのってたしかまだ――」
「あ、おーい」
前線組の中から一人、線の細い優男が抜け出して来た。
あの天然パーマは見知った顔だ。
「やあ、シュウ。キミもいま仕事終わり?」
「あぁ、今回の大物はアントラー」
「はっはー、いいね。牧歌的で。退屈しないの?」
「今のところは。後進の育成にも順調だし」
「後進の育成ねぇ」
ちらりとルリのほうを見た。
「紹介するよ。いま指導してる
「はじめまして」
「ああ、初めまして。それでさ」
レンの視線がこっちにくる。
「まだ気は変わらないの?」
それはもう何度目か、数えるのも面倒になるくらい聞かれたことだった。
「あぁ、今のところ」
この返事も、もう何回したことか。
「ふーん、そっか」
若干の沈黙が流れた。
「おい、レン。なにしてる、行くぞ」
「あ、うん。行かないと。それじゃ」
「あぁ、また今度」
十数人の前線魔導士たちはみんなエントランスから消えて、レンもその後に続く。
この場に残った魔導士たちの視線はまだ、もう見えなくなった背中に向かってる。
羨望の眼差しって奴。
「お知り合いなんですね、前線魔導士と」
「ただの同期だよ。一番の出世頭」
「シュウさんって今年で魔導士何年目でしたっけ?」
「三年目だけど」
「三年……三年か」
なにやら含みのある言い方だ。
「……なりたいのか? 前線魔導士に」
「目標ではあります。魔導士の花形でもありますし」
「たしかに。世間が魔導士に期待してるのって資源の確保より、ダンジョンの踏破だしな」
「国交を再開させないことには資源不足の根本的な解消になりませんからね」
ダンジョンから得られる資源でギリギリ持ち堪えているものの、生活はずっと苦しいままだ。ダンジョンを踏破して海外との繋がりを結び直し、国交を再開する。
それが俺たちに望まれていること。
「目指すって言うなら応援するよ。それに向けて指導方針も変えられるけど」
「是非、お願いします」
「よし、じゃあ明日からだ」
前線魔導士は狭き門だ。
指導する側も気合いが入る。
帰ったら指導内容について色々と考えないと。
「シュウさんは考えたことないんですか? 前線魔導士になろう、とか」
前線魔導士。魔導士の花形。選ばれし者。
魔導士になったからにはと、それを目指す人は多いし、誰もが一度は考える。
けど。
「……考えたこともないね」
――――――――
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