Bパート
私は橋上のがんばりを見てから走り高跳びに興味を持って、陸上の大学対抗戦に足を運んだ。6つの強豪大学が様々な陸上競技で争うことになる。競技場の隅には着々と準備をしている彼の姿があった。
「橋上さん!」
「あっ! 刑事さん!」
「応援しに来たわ! がんばってね!」
「はい! コンディションは最高です! がんばります!」
彼は元気いっぱいで笑顔を私に向けてきた。
(この分ではいいところまで行くわね。あんなにがんばっていたから・・・)
私は彼が素晴らしい成績を残すと感じていた。すると・・・彼はどんどん跳んでいった。先日の練習の時とは別人のようだ。自信に満ちた顔突きになっている。
そして最後は2メートル26センチだ。ここまで残った2人は3回失敗した。彼は3回目に見事に飛んでみせた。彼は大学対抗戦で優勝したのだ。
「やった! やったぞ!」
彼は興奮したまま、ガッツポーズをして喜んでいた。今まで表彰台に縁がなかったのに、いきなり優勝したから・・・。私は彼に駆け寄って言葉をかけた。
「優勝、おめでとう! 素晴らしかったわ!」
「ありがとうございます。まるで夢見ているようです」
「一生懸命練習した甲斐があったわね」
「はい! 大山も喜んでくれていると思います」
彼はそれから多くの人に囲まれた。走り高跳び界の新しいエースとしてこれからもますます活躍するだろう・・・。
だが私は何か引っかかるものを感じていた。
(数日前までロクに飛べなかった選手が素晴らしい成績で優勝するのだろうか・・・)
私の中でその疑念は大きくなった。そこで次の日、私は彼を訪ねた。彼はグラウンドで汗を流して懸命に練習をしていた。
「昨日はよかったわね。」
「日本陸上大会にも出られるようになりました。次も優勝を狙います!」
彼は自信に満ちていた。
「ちょっと聞くけど・・・薬なんか飲んでない?」
すると彼は一瞬、表情をこわばらせた。そしてすぐに否定した。
「とんでもない! ドーピングなんかしてないですよ! そんなことをすればすぐにわかってしまうでしょう!」
「ごめんなさい。大山さんのこともあったから・・・。でも大山さんがもし何かの薬を使っていい記録を出して、そしてあなたが同じことをしたとしたら・・・それが心配になって・・・」
すると彼は急に怒り出した。
「僕も大山もそんなことをするはずがないでしょう! 出ていってください! 不愉快です!」
その剣幕に私はその場を離れた。その後も遠くから見ていたが、彼は一生懸命練習に励んでいた。それが実を結んだと思いたい・・・。だがあの怒りようが私の疑惑をより深くしていた。
◇
薬物の解析は進んでいた。遺体にかすかの痕跡が残っているというのだ。私は研究所にその話を聞きに行った。
「どんな薬が出たのですか?」
「まだはっきりとはわからないのですが、新しい未知の物質です。この薬を使えば一瞬、興奮状態になって筋力をパワーアップできます。それに時間が経つと分解されて体内の物質と見分けがつかなくなる・・・」
研究員は説明してくれた。
「これを使えばドーピング検査を潜り抜けられるわけですね」
「多分、可能でしょう。今の技術では尿から検出できない」
あとはその薬の出所だ。そんな薬を誰が開発したというのか・・・
「その薬を作れるところに心当たりがありますか?」
「まあ、似た薬のことを聞いたことがあります。確か、メディカル工科大薬学部の三浦教授が発表していました。すぐに代謝される薬について・・・」
これでわかってきた。研究成果を見るためにスポーツ部の学生を使ったのだ。
(人体実験まがいのことが行われている。だが証拠が残らない・・・)
三浦教授を追い詰めるのは困難が付きまとうだろう。だがこのままではこの薬を使った選手は大山のように命を落としてしまうかもしれない。あの橋上も・・・強引だが三浦教授を引っ張ってくることにした。
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