第5話『天の道』

 泥船号は快適だった。

 今のとこ、沈む様子はないみたい。

 19キロ、34分のドライブ。

 途中、道路沿いに海岸線が見えた。

 そして、目の前に大きな登りの傾斜が見えた。まるで、緩やかな滑り台を逆走して行くよう。

「狸子、

コレが新湊大橋だよ」

 クマちゃんが説明してくれた。

 雨が止んだ曇り空。傾斜を登り切ると海の上に作られた橋を走る。

“天の道“

まるで、空を走っている感覚だった。

「今、海面から47メートルの高さだよ。

そして、あの主塔の高さは127メートル」

 目の前に大きな塔がそびえている。その塔の中央の切れ間が道路になっている。主塔からはいくつものワイヤーが伸びて、橋を支えていた。

「日本海側最大級の斜張橋だって」

 自分のものを自慢するみたいにクマちゃんが言った。

「どうして、こんなに高い橋を作ったのかな?」

 わたしの率直な疑問にも、クマちゃんは即答。

「ほら、チラッと右見てみて」

 クマちゃんに言われ、右を見る。すると、帆は張っていないけど、大きなマストが伸びた帆船の姿が見えた。新湊大橋に隣接する公園に、その巨大船は係留されていた。

「あれは、『海の貴婦人』と言われた、海王丸だよ。

大型船もスムーズに航行できるようにって、こんな高い橋を作ったらしいよ」

「へ〜、スゴい!

でも、クマちゃん、どうしてそんなにくわしいの?」

「かわいい狸ちゃんにモテようと思って、予習しといた」

 わたしはチラッとクマちゃんを見て、また、前方に向き直った。

「それで、免許忘れなかったら、かんっぺきだったのに」

「ね!」

 スゴい人ごとなもの言いのクマちゃん。  

 思わず笑ってしまった。つられて、クマちゃんも笑った。

 ガオ🐻⚓️♪


 第6話へ続く

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