高校生活

 入学式から始まった高校生活ははじめ、大きな問題がなくすんなりと進んだ。

 何かあった時のためにも、なるべく僕と遥は行動を共にしていたけれど、165cmある遥は僕よりも身長が高くて男らしい。それに、ハッキリとした言動は同級生からの印象もとてもよかった。クラスには遥を女の子だと疑っている人間すらいないだろう。

 だが、今日は問題が起こった。今日は体育の授業がある。

 高校生活最初の体育の授業でクラスの男たちは、当然のように着替え始めている。上を脱いだまま談笑していたり、わざわざパンツ一丁になったりとお祭り状態だ。


「はる、着替え大丈夫?」


 聞かれても平気なように、男としての名前で呼ぶと、遥は平然と教室の中で服を脱ごうとしていた。まだ教室にみんないるのに……!


「平気だよ。家で下に体操服着てきたんだ」


 彼女は服を脱ぎかけの状態で近づいてきて、僕の耳元でささやいた。

 ぐっ……。抑えろ! 僕が原因でばれたらどうするんだ。


「そ、そうなんだ。それなら何とかなりそうだね」


 しかし、歯を食いしばってなんとか平静を保つ僕に、更なる試練が訪れた。

 教室の外へ駆け出そうとする、白の体操服姿になった遥の手を、慌ててつかんで制止する。

 制止する……が、なんて言えばいいのか。


「守? どうしたの」


 やっぱり気づいていない。言いづらいことだけれど、ここでちゃんと伝えないと困るのは遥だ。


「その、透けてる、よ」

「へ?」

「下着が、見えてる……」

「きゃっ……!」


 遥はとっさに胸元を両手で隠すが、その仕草はよくない。手元にあった自分のブレザーを背中にかけてあげるけれど、クラスメイトからはどう見えているのか……。


「いちゃついてないで、早くいくぞー」


 バレてない……か?

 恥ずかしさで顔を紅潮させた遥と、その姿を見て女の子だと再認識した僕。二人で秘密を共有するには、心の準備がまったく足りていなかったことを理解させられた。


 その後も何度か危ない場面がありながらも、二人でなんとか日々を乗り越えていくことができた。そして、緊張感がありながらも楽しい高校生活は、早くも年が明けて一年近くが経とうとしていた。

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