幼馴染の女子と男子校に通うことになりました。

三宅ラズ

男装

「私の大事な娘、はるかもキミと同じ神谷かみや高校へと通わせることにした」


 同じく神谷高校へと進学を決めた僕、上久守かみひさ まもるにそう告げたのは、神谷高校を取り仕切る理事長、神谷泰三たいぞうだ。

 そして彼の娘である神谷遥は、僕にとって初恋の相手であり、幼稚園から中学まで一緒に過ごした幼馴染でもある。

 将来のためと思って、泣く泣く神谷高校を選んだ僕にとって、遥と同じ高校へと通えることは朗報であることは間違いなかったが……。


「神谷高校って男子校ですよね?」


 僕の初恋相手の遥は女の子で、理事長の娘と言えども当然男子校に通えるはずがないのだ。


「もちろんそうだ。だが、遥は将来は神谷高校を理事長として継いでもらうつもりだ。そして通い、学び、学友を得ることで内情を知らねば良い運営をしていくのは難しいというものだろう。実際、私も子供のころ通ったわけだ。――懐かしいな、はっはっは」


 なにがそんなに可笑おかしいのだろう。次期理事長だから、神谷高校の将来のためだから、と言えば通えるとでも思っているのだろうか。

 遥と同じ学園に通えるかもしれないという淡い期待と、危機感のない理事長を目の前にして、苛立いらだちを覚えずにはいられなかった。

 そんな僕の心中しんちゅうを知らずに理事長は、昔の出来事を思い返しているのか、目を細めていた。

 

「そこでだ。遥には男装をしてもらおうと考えている。神谷遥の字のまま、『はるか』としてではなく『はる』として通うつもりなのだが、守くんの意見を聞かせてくれるかい」


 理事長の言葉とともに姿を現したのは、こんのブレザーを着た幼馴染だった。

 黒くツヤがあって長かった髪は、肩に届かない長さで切りそろえられていて、もとより端正な顔立ちをしていた彼女からは中性的な魅力を感じた。


「どうかな」


 世界一可愛い。

 とっさに出そうになった言葉をぐっと飲み込んで一呼吸置く。

 いつもよりも低めの落ち着いた声で話す遥と共に、僕が高校で青春の日々を過ごすために必要な言葉は――。


「……とても似合ってるよ、はる。これならきっと大丈夫」


 自分の気持ちを誤魔化しながら出た言葉は、おそらく最適な言葉だったはずだ。

 男装した遥は、パッと見の印象だと男性と見てもらえるかもしれないが、今僕の言葉を受けて嬉しそうにはしゃぐ姿はやはり、可愛い女の子。

 ブレザーが似合っていることを喜んでいるのか、それとも僕と同じ高校に通えることを喜んでくれているのか。分からないけれど、後者であって欲しいと願いながら「高校生活もよろしく」と笑顔で語りかけた。

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