第十九章 相聞
それから、図書館で悠と顔を合わせることが増えた。
約束したわけではない。
けれど、夕方になると、自然と同じ机の近くに座っている。
会話は多くない。
互いに本を読み、
ときどき視線が合えば、小さく会釈をするだけだ。
それだけなのに、落ち着いた。
「……その本、続きを読んだ?」
ある日、悠が小さな声でそう言った。
「うん。
でも、答えは書いてなかった」
総一がそう返すと、悠は少しだけ笑った。
「でしょうね。
あの本、たぶん“答え”を書くためのものじゃないから」
言葉を選ぶような言い方だった。
けれど、不思議と意味は伝わった。
その日から、帰り道を一緒に歩くようになった。
夜風は冷たく、街は賑やかで、
それでも二人の間には、静かな空気が流れている。
信号待ちの途中、悠が足を止めた。
「ね」
振り返る。
「もし、あの本がまた誰かに渡るとしたら……
私たちは、どうなると思う?」
すぐには答えられなかった。
けれど、胸の奥には確かな感覚があった。
「……一緒に、続きを考えると思う」
悠は驚いたように目を見開き、
それから、ゆっくりとうなずいた。
「うん。
それなら、いい」
手が触れた。
指先が、確かめるように絡む。
言葉はなかった。
それで、十分だった。
――この物語は、待つためだけのものじゃない。
――生きて、選んで、続けるためのものだ。
夜は、今日も更けていく。
けれどその隣で、
総一と悠は、同じ頁をめくっていた。
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