第十四章 静暖

夜明け前、呼び出しがあった。

部屋は静かで、かすかな息遣いだけが残っていた。


優子はほとんど眠るように目を閉じていた。

その顔は、驚くほど穏やかだった。


「……来てる?」

かすかな声。


「いる」


それだけで十分だったようで、優子は微笑む。

「ありがとう……来てくれて」


その後の言葉はなく、手を握り返すこともできなかった。

ただ、温度が消えていくのを感じるしかなかった。



帰宅した夜、爽太は机に二冊の本を並べた。

似ているが、確かに違う。

それでも、どちらも同じ想いを抱えていた。


守れなかった命。

助けられなかった少女。


それでも、託された。

誰かが誰かを待っていたという事実を。

想いが途切れずに巡っていたという証を。


爽太はそっと本を閉じる。

「……必ず、返すよ」


それが誰に向けた言葉なのかは分からなかった。

ただ、夜は静かに更けていった。

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