第九章 夜想

夜道を歩き終え、自宅の扉を閉めた爽太は、ふと昼間のことを思い返した。

瓦礫の間で、必死に本を探していた優子の姿。

小柄な体に力を込め、咳き込みながらも決して諦めない様子――


「大丈夫だったかな……」


自分でも驚くほど、心配の念が胸をよぎる。

普段は硬く、感情をあまり出さない自分だが、優子のことになると自然に思いが巡る。


あの小さな体で、瓦礫を片付けるのは無理がある。

手や肩、腰に負担はかかっていないだろうか。


爽太は机に本を置き、窓の外を見やる。

夜風に揺れる街灯の光が、瓦礫の街の影を思い起こさせる。

あの中で、無事に帰宅できているだろうか。

自分の声かけや手伝いは十分だったのか――


ふと、昼間の優子の小さな笑顔を思い出す。

あの時の、ほっとしたような表情が、胸の奥に温かく残る。


「……明日もまだいるのかな。」


硬い口調のまま呟くが、そこには確かな思いやりがにじむ。

自分の硬さの裏にある感情を、爽太は少しずつ受け入れ始めていた。


夜はまだ静かで、街は眠りに包まれている。

でも爽太の胸の中では、昼間の優子の姿が強く残り、心配と、少しの切なさが静かに波打っていた。

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